研究領域 | 水を主役としたATPエネルギー変換 |
研究課題/領域番号 |
23118714
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
相馬 義郎 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (60268183)
|
キーワード | ABCトランスポータ / ATP加水分解 / ATP結合ドメイン / CFTR / チャネル / 結合エネルギー / ゲーティング / 水和 |
研究概要 |
初年度(平成23)年度は、ABCトランスポータ・CFTRチャネルのATP依存性ゲーティングサイクルを非加水分解ATPアナログであるピロリン酸PPiを用いて詳しく解析することにより、NBD2量体が部分解離しているのにもかかわらずポアが開口状態にある新規中間状態Xiの存在を発見した。このことは、一回の開口イベント中に複数個のATP分子が加水分解されうることを示している。さらにR352C変異CFTRが、開口中に起こるATP加水分解の前と後でシングルチャネルコンダクタンスが変化することを発見した。このR352C-CFTRに新規中間状態Xiの安定性に影響を与えるW401F変異を導入してその効果を検討することにより、ATP加水分解サイクルとゲーティングサイクルとのルーズカップリングが追確認できた。同じ現象がABCトランスポータ・スーパーファミリーの他の輸送ポンプ分子にも起こっているとすれば、一定の外部仕事(基質1分子の上り坂輸送)に使われるエネルギー(加水分解されるATP分子の数)が確率的に変化していることを意味しており、ATPエネルギーの理解において極めて重要な発見である。 さらに、高速原子間力顕微鏡を用いて、CFTRチャネルの1分子像を空間分解能0.1nmおよび時間分解能300ms/frameの動画で得ることに成功した。この成果は、日本生理学会年会および日本薬理学会年会で、研究代表者・相馬が主催したシンポジウムで発表した。 また初期実験として、近赤外線分光法を用いたATP水溶液の吸光スペクトル測定を行い、ATP分子周囲に発生していると考えられているハイパーモバイル水に関連している可能性のある水の吸収スペクトルを得ることができた。このことは、当該領域立ち上げに重要な役割を果たしたハイパーモバイル水に関連する重要な発見である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度において、ABCトランスポータ・CFTRにおけるATP加水分解サイクルとゲーティングサイクルとのルーズカップリングの可能性というATP利用メカニズムを理解するうえで極めて重要な発見をおこない、論文発表を行なった。さらに、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて水溶液中のCFTR1分子の動画撮影に世界で初めて成功し、日本生理学会年会でのシンポジウムの主催・発表を行うことができた。 当初予定していた中国からのポスドクは、国際情勢の変化等の理由により来日・雇用することはできなかったが、連携研究者や研究協力者達の予想以上の当該研究への積極的な参加・協力により、結果的には、初年度の当初研究目標以上の成果を達成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、高速AFMによるCFTR1分子動態観察をパッチクランプ法によるシングルチャネル電流(ゲーティング)観察と組み合わせて行うことにより、本研究課題を進めてゆく予定である。 CFTR試料を、現在の単純に水溶液中で可溶化した状態に加えて、プロテオリポソーム化してAFM観察ステージ上に展開することにより、リン脂質2重膜に組み込まれた状態で作動中のCFTR分子を細胞内側から高速AFM観察を行う。またCFTR分子自体も、WT-CFTRに加えて、Rドメインを取り除いて恒常的な活性化状態にある変異体 deltaR-CFTRを用いて、ATP分解サイクル中のNBDのコンフォメーション変化サイクルの直接観察に挑戦する。また、WT-CFTRとdeltaR-CFTR の観察結果を比較することにより、生理的条件下においてCFTR活性調節の中心的な役割を果たしているRドメインの動態についての情報も得る。 前年度までの課題であったポストドクターの雇用については、予ねてより研究協力者であった慶應義塾大学大学院生 余盈君の大学院修了に伴い、今年度からポストドクターとして雇用して当該研究に参加させる予定である。
|