イメージングプレートX線回折装置を用いて、298Kから160Kまでの温度範囲で、F-アクチン試料の水溶液および水和粉末を測定した。F-アクチンはウサギ筋肉アセトンパウダーから精製した。粉末試料の水和率は一般にタンパク質が機能を発現し始めると言われている、0.4(乾燥アクチン1 gに対して水 0.4 g)に調整した。F-アクチン周囲の水和水について、278Kから298Kでは、隣接の水分子と水素結合していない水分子の存在が確認されたが、278K以下では、水素結合した水分子がほとんどであることがわかった。同様な条件で測定された他のタンパク質(β-ラクトグロブリンおよび不凍タンパク質)の水和水の構造に対する温度依存性とは異なっていた。このことは誘電緩和測定などから観測されているF-アクチン周囲のハーパーモバイル水との関連が示唆される。すなわち、室温付近ではF-アクチン周囲の水和水はバルク水に比べて運動性が高いと思われる。 また、高分解能X線非弾性散乱の測定を行い、水和F-アクチン粉末の集団ダイナミクスを観測した。その結果、高周波音速が他のタンパク質の値に比べて10%程度減少していることがわかった。高周波音速の低下は水の構造性が弱められていることを示すと考えられるので、この結果はX線回折の結果と矛盾がない。 以上の実験結果より、タンパク質分子と水分子の相互作用によりタンパク質水和水の液体構造やダイナミクスが受ける影響について議論した。
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