研究概要 |
本年度はATPアナローグとして,ピロリン酸を選び,その加水分解反応の自由エネルギー解析を詳細に行った。ピロリン酸は溶液のpHにより4つのプロトン化状態を取ることが知られており,本研究ではその4つ全てに対して解析を行った。実験とRISM-SCFによる溶液内反応の計算結果は驚くほどの一致を見せた。 これまでにも,誘電体モデルなどのパラメータに依存した計算が行われており,ある程度実験値を説明しうる結果が出されてきたが,これはATP加水分解における溶媒効果の重要性をパラメータ無しの計算で証明したという点で大きな意義を持つ。 また,単なる反応エネルギー解析だけでなく,自由エネルギー成分の分析も行った。この結果から,反応の自由エネルギーの寄与は大きく分けて二つの要素が考えられることを示した。一つは水素結合など,溶質-溶媒間(ピロリン酸-水間)の分子的特徴を反映した近距離の相互作用,もう一つは長距離にわたる静電相互作用である。ピロリン酸の総電荷が0ないし-1の場合は近距離相互作用が,-2および-3では長距離相互作用が自由エネルギー変化の主たる要因となる。 従来の誘電体モデルの計算では長距離相互作用のみが考慮されており,近距離相互作用に関しては経験的パラメータに依存するか全く無視しており,このために精度と普遍性を欠いた結果となっていた。 この研究の成果は現在論文としてまとめて,投稿段階にある。
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