1)リン欠乏時の膜脂質生合成変異体pah1pah2における凍結耐性 シロイヌナズナpah1pah2変異体は、リン欠乏耐性を欠くが、低温順化処理の有無に関わらず凍結耐性が付与されていることがわかった。そこで、野生株におけるPAH1/PAH2の遺伝子発現レベルを調べたところ、凍結処理時に通常時の50%程度まで減少することがわかった。一方で、これまでに凍結耐性に寄与するとの報告があるホスホリパーゼDについては、野生株と変異体で発現量に差がなかった。これらのことから、凍結耐性の付与にはPAH1/PAH2が直接的に関与していることわかった。また、凍結時の葉の電解質漏出度を調べたところ、野生株と変異体では有意な差がみられなかった。以上のことから、植物はPAH1/PAH2を介した脂質転換により凍結ストレスに順応するが、それは膜脂質組成変化による膜の物理的な安定性向上でなく、シグナル因子であるホスファチジン酸が凍結後の細胞修復を促進している可能性が示唆された。今後は凍結後の膜脂質修復に着目して研究を進める。 2)シロイヌナズナ糖脂質合成酵素過剰発現体を用いたリン欠乏応答機構の解明 リン欠乏時の膜脂質転換における主要酵素であるtype B モノガラクトシルジアシルグリセロール合成酵素の過剰発現体 (MGD3_OE)を作成した。MGD3_OEでは、野生株よりも新鮮重がやや増加していることがわかった。また、MGD3_OEではリン欠乏ストレス応答の指標であるアントシアニンの蓄積も抑制されており、リン欠乏応答が低下している可能性が示唆された。植物生育培地中のスクロース含量がリン欠乏応答に影響を及ぼす報告があるため、MGD_OEにおけるスクロース含量を測定したところ、地上部におけるスクロース含量が野生株に比べて少ないことがわかった。今後は、このスクロース含量の減少が何に起因するのかに着目して解析を進める。
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