公募研究
植物は、生育環境の変化に応答して、自らの成長様式や形態を柔軟に変えて適応する高い能力を持つ。本研究では、植物の発生と環境を協調させる因子として、Never in mitosisA (NimA)関連キナーゼ(NEK)に着目し、その環境応答と形態形成における機能の解明を目的とした。遺伝学的解析が容易なシロイヌナズナの利点を生かし、NEKファミリー(NEK1からNEK7)のストレス応答における機能解析を行った。Nek6/ibo1変異体において発現が変動する遺伝子を解析したところ、野生株と比較してストレス応答性遺伝子の発現が顕著に変動していた。また、NEKファミリーの変異体のアブシジン酸応答を解析した結果、アブシジン酸感受性やストレス応答が変化していることが示された。以上より、NEKファミリーがストレス応答や遺伝子発現の制御に関与することが示唆された。NEKファミリーの発現パターンを解析したところ、組織特異的な発現を示し、幾つかにグループ分けできることがわかった。また、NEKファミリーの変異体の形態観察を行ったところ、葉や根など多様な形態形成を制御することがわかった。NEKの分子機能を明らかにするため、NEKファミリーと相互作用するタンパク質を酵母2ハイブリッド法と免役沈降法により同定した。NEK6はNEK4,5と相互作用し、チューブリンのリン酸化を介して細胞伸長を制御することがわかった(Motose et al.2011)。また、NEK6は様々なタンパク質と相互作用して働くことが示唆された。動物や菌類のNEKは主に細胞分裂を制御するが、本研究から、植物NEKの機能が細胞伸長や環境応答へ多様化してきたと考えられる。今後もNEKファミリーの機能解析を進め、植物が環境変化に敏感に応答し、発生過程を変化させる柔軟性の分子機構に迫る。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究から、NEKファミリーがストレス応答と遺伝子発現に関与することを示すことができた。Nek6/ibo1変異体において発現が変動する遺伝子をマーカーとして用いることで、NEKを介した情報伝達経路と遺伝子発現制御機構を明らかにできることが期待される。また、NEKの発現パターンと変異体の表現型を組み合わせ、環境応答と形態形成におけるNEKの機能の一端を示すことができた。今後もNEKの機能解析を行い、環境変化と成長を協調させるしくみを明らかにしたい。
今後は、NEKファミリーがどのようにストレス応答と遺伝子発現を制御しているかについて、その分子機構を明らかにしたい。NEKファミリーの変異体において発現が変動する遺伝子を手がかりとして研究を進める。また、NEKの発現パターンと変異体の表現型をより詳細に解析し、環境応答と形態形成を協調させる分子機構を明らかにしたい。今後も研究環境の改善と研究内容の更なるレベルアップを目指し、研究成果を論文や学会、ホームページ等において公表していきたい。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Plant Cell Physiology
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http://www15.atwiki.jp/motosehiroyasu/