イネは可給態のマンガンが高濃度に存在する水田において、積極的に地上部にマンガンを移行し無毒化する能力を有する。本研究では根から地上部への輸送に関与するトランスポーターの同定を試みてきた。昨年度までに、機能欠損により地上部に著しいマンガン濃度の低下を引き起こす遺伝子OsMTP9を単離した。本年度は、OsMTP9タンパク質の局在性の解析を通じて、この現象を引き起こす原因と同トランスポーターの植物体内における役割を解析した。イネプロトプラストにおけるGFP融合タンパク質の一過性発現解析により、OsMTP9の細胞膜への局在が認められた。また、抗体染色によりこのタンパク質が根の内皮と外皮の細胞層において、カスパリー帯で隔てた細胞の向心側に偏向局在することが明らかになった。さらに、OsMTP9が発現する根の基部において欠損株ではシンプラスト中のマンガン濃度が著しく上昇した。以上の結果は、OsMTP9が根の中心柱側に方向性を持ったマンガン輸送を行うことにより、結果として地上部への高効率なマンガンの輸送を可能にしていることを示唆している。一方、昨年度イネ地上部において過剰なマンガンを液胞へ排出することにより無毒化するトランスポーターOsMTP8.1を同定した。本年度は液胞へのマンガン隔離の意義について詳細な解析を行った。生理学的解析により、OsMTP8.1欠損株はマンガン過剰処理時に野生株よりもマンガン吸収量が低下した。この現象に関与する遺伝子を特定するため、複数の金属輸送体遺伝子の発現変化を解析したところ、鉄の獲得に関与する輸送体遺伝子の発現が抑制されていることが分かった。これらの結果から、OsMTP8.1による液胞へのマンガンの隔離は、正常な鉄欠乏応答に寄与することが示唆された。
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