研究概要 |
顔がないところに人の顔が見える現象は健常者にも体験されることがある.一つは実際には外界からの入力がない知覚を体験してしまう幻視であり,もう一つは刺激を他のものとして知覚してしまう錯視である.錯視の中に,雲の形が顔に見えたり,しみの形が動物に見えたりと,不定形の対象物が違ったものに見えるパレイドリア(pareidolia)という現象がある.いわゆる「心霊写真」の現象である.知覚されるものは目鼻を伴った顔,人物が多く,脳が積極的に顔を見出そうとする傾向を持っていることの表れではないかと考えることができる.それを抑制する機構があって健常者では出現が抑えられているが,中毒や脳疾患で抑制機構に不具合が生じることで出現しやすくなると考えられる. Lewy小体病は高頻度に顔や人物の幻視や錯視が生じる.幻視は検査によって直接的に検出することの難しい症状だが,錯視ならば検査で評価可能である.そこでパレイドリアに注目し,誘発課題を作成して,パレイドリアの出現頻度をLewy小体型認知症,アルツハイマー患者,健常者で比較した.パレイドリアの出現頻度はLewy小体型認知症で圧倒的に高く,パレイドリアの内容はいずれの群においても人物,動物がほとんどで,約半数が「人物の顔」,「動物の顔」,残りが顔を伴う人物あるいは動物であった.パレイドリア検査でLewy小体型認知症とアルツハイマー病を感度100%,特異度88%で鑑別することができて,それが幻視の代用指標として有用であることも示された.Lewy小体型認知症では,ドネペジルで治療されている患者ではパレイドリアは視覚認知障害と相関し,未治療の患者では幻視および妄想性誤認と相関していたことから,幻視とパレイドリアの発現機序の共通性,パレイドリアに視覚認知機能障害とコリン系神経によって調整されている覚醒・注意機能の障害の両方が関与していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
顔の錯視に関して,誘発課題の作成,疾患群に対する行動実験,病巣研究,賦活研究を考えていた.誘発課題の作成,疾患群に対する行動実験は完了し論文の出版まで至った.現在その責任病巣に関する病巣研究を進めている.賦活実験はまだ着手していない.
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