研究概要 |
本研究では,顔の表情認知における視覚・触覚の異種感覚情報の統合機構の解明を目標としている.顔の認知機構は多くの場合,視覚情報だけを用いて研究が行われており,視覚以外の感覚情報とどのように統合されて顔の認知に至るのかに関する解明はほとんど進んでいない.近年になって,視覚だけでなく触覚でも顔の表情認知ができることが報告されており,顔の表情認知機構は視覚情報と触覚情報を統合している可能性がある.そこで本研究では,ある表情を持つ顔を見た後,中立顔を見ると順応顔の反対の表情を持った顔として知覚される顔残効と呼ばれる視覚心理現象が触覚でも生じるかを調べた.被験者は,喜び顔か悲しみ顔のフェイスマスクを目を閉じて両手で20秒間触った後,中立顔のマスクを5秒間触り,その表情を応答した.その結果,順応顔の表情に依存して,テスト顔が反対方向の表情として知覚された.これより,触覚においても顔残効が生じることが示唆される.触覚における顔残効現象の発見は,視覚情報と触覚情報の顔認知におけるインタラクションを調査するためのプローブとなるため重要な発見であると考える.現在は,この現象を利用して,顔の触覚刺激に順応した後に顔の視覚刺激を検査刺激として呈示しても顔残効(クロスモーダル顔残効)が得られるかどうかを検討しており,クロスモーダル顔残効が得られることを予備的な観察により確認している.今後は,本実験として展開していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,現有の触覚デバイスを用いて実験を行う予定であった.しかし,その触覚デバイスでは,うまく触覚顔刺激が提示できないことが判明し,装置の改変が必要となった.それにもかかわらず,なんとか触覚顔刺激の作成に成功した点が非常に大きかったと考える.また,当初,やってみないとわからないという状況下で,触覚顔残効の発見が本研究の大きな原動力となり,一気に研究が加速し,本年度の目標に達することができた.
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