顔認知研究の多くは視覚情報だけを用いていますが,最近の研究は触覚でも顔表情を認知でき,さらに顔表情の視覚刺激が顔表情の触覚判断に影響を与えることを報告しています.これらの知見より,顔処理において視覚系が触覚信号を受け取っている可能性が考えられます.そこで本研究では,顔表情残効の実験パラダイムを用いて,触覚順応から視覚残効への転移が生じるかどうかを調べました.被験者は,喜び顔か悲しみ顔のフェイスマスクを暗黒下で5秒間触った後,喜び顔と悲しみ顔の間でモーフィングされた顔表情の視覚刺激を0.5秒間見て,その表情が喜びか悲しみかを応答しました.その結果,顔表情の触覚順応後に顔表情の視覚残効が生じました.また,この残効は,順応時の意識的な視覚イメージ,低次特徴の触覚順応,応答バイアスが原因ではないことを確認しました.これらの結果は,視覚系が触覚顔信号に応答することを示しています.さらに,顔表情の視覚順応後に顔表情の触覚残効が生じることもわかりました.以上の結果より,顔処理は視覚と触覚のクロスモーダルな相互作用を基盤とする神経表象に依存していることが示唆されます.本研究の成果は,平成25年3月25日付けでPsychological Science誌に論文として採択されました.
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