研究概要 |
【目的】顔表情は、知覚者の感情を喚起し、その行動出力を方向づける。本研究は、顔表情が個体間の行動出力に及ぼす影響について、脳領域間の情報伝達を担うセロトニン神経系遺伝子多型の機能、及び環境要因としてのトリプトファンに着目して、顔表情の認知に関わる遺伝子・環境相互作用機序に関わるモデルを提唱することを目的としている。 トリプトファン急性枯渇法(ATD: Acute Tryptophan depletion)は,セロトニンの前駆物質,すなわちセロトニンの生成に必要となる必須アミノ酸のL-トリプトファン(L-tryptophan)量を低減させる手法である。この手続きにより生体内のセロトニンの前駆物質(トリプトファン)を増減させることで,セロトンが神経活動や行動に及ぼす因果関係を検討することが可能となる。このATDを行うと恐怖表情に対する扁桃体の反応性が上昇したり,強化学習課題において自身にもたらされる罰への感受性が上がるなど,セロトニンが脅威関連刺激の処理過程に影響しうる可能性が示されてきた。こうした動向を背景に,平成23年度は、セロトニン・トランスポーター(5-HTT)遺伝子に着目をし、怒りと恐怖が知覚者にもたらす行動反応の相違について更なる検討を行った。 実施したGo/Nogo課題における正反応は,例えば「中性表情」が出たらボタンを押し(Go反応),「恐怖表情」が出たらボタンを押さない(Nogo反応)といったように,個々のターゲットとなる表情が条件ごとに指定される。実験の結果,ATDにより,本来は回避性を喚起し,運動反応の抑制が比較的容易である恐怖表情に対するNogoエラー(衝動的反応)が確認された。他方,従来,運動反応の制御過程そのものへのセロトニンの関与否定的な知見が報じられていること併せて考えると,運動反応の制御過程そのものにセロトニンが関与せずとも,表情の感情的評価を通じた影響がこれに及ぶものと考えることが出来る。
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