私たちは先行研究で、未知の顔の記憶時に、その人物にかかわる社会的情報を前もって教えられると、再認成績が向上すること、そしてその記銘時に前頭葉から後頭側頭皮質へとダイナミックな活動の変化が生じることを示した(Tsujimoto et al. 2011)。本研究では、社会的情報の有無だけではなく、その情報と顔のイメージとの一致度という要因が、脳内活動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 被験者にとって未知の顔の写真と文字情報のペアを300ペア作成し、予備実験において、情報と顔の一致度を調べた。一致度の高いものから50ペアを「Valid」、低いものから50ペアを「Invalid」、真ん中の50名のグループを「Neutral」とした。本実験では、この3グループ、合計150ペアの写真・文字情報を使用した。本実験の被験者は、大学生または大学院生18名であった。スクリーンに文字、顔写真の順で、刺激を呈示し、すべて呈示した後に、見たか見ていないかの再認課題を実施した。 正答率を3条件に分けて比較したところ、Valid(78.8%)とInvalid(82.3%)がNeutral(63.2%)条件よりも有意に正答率が高かった。一方ValidとInvalidの間には統計的に有意な差はなかった。近赤外線分光法(NIRS)によって記銘時の前頭葉の脳血流の変化を調べたところ、ValidとNeutralおよびInvalidとNeutralそれぞれの間の差だけでなく、ValidとInvalidの間にも有意な差があった。 これらの結果は、情報と顔写真の一致度が高いときと低い時に顔を記憶しやすいが、それぞれを支える脳内メカニズムは異なっていることを示唆する。このメカニズムの詳細を明らかにすることで、顔の記憶の脳内メカニズムの理解の進展、さらにはそれをいかした発達支援などに寄与するものと考えられる。
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