人間の顔表情はコミュニケーションにおける意思疎通,特に感情の伝達において重要な役割を担っている.顔表情から感情の程度を定量化するためには,表情の表出に伴う顔の変化(物理的変化量)と認知される感情(心理的変化量)の対応関係を明らかにすることが重要である.本研究では,個人固有の表情パターンの変化と認知される感情の変化を定量的に対応付ける表情特徴空間の生成手法を確立した.また,表情特徴空間の生成及び評価を実施するための表情解析ツールの製作を実施した. 提案手法では,自己組織化マップ(SOMs)と対向伝播ネットワーク(CPNs)を応用して表情特徴空間を生成する.具体的には,表情パターンの変化の程度(物理的変化量)に対し,共通の指標に基づく感情の程度(心理的変化量)の対応付けを行った.認知される感情は,被験者が異なる場合であっても大きく変わることはなく,普遍である.本研究ではこの点に着目し,心理学の分野で提案されたRussellの円環モデル(心理空間モデル)を指標として採用した.円環モデルの座標値をCPNsの教師信号として用いて表情特徴空間を生成したところ,表情パターンの変化の程度と感情の程度の定量的な対応付けが可能であることが明らかとなった.また,本研究では,表情特徴空間の評価を行うための解析ツールを製作し,空間のサイズ・次元数に関する評価,時系列入力画像を対象とした評価等を実施した. 表情認識を目的とした識別器には,本研究で対象とした空間軸に対する頑強性の他に,時間軸に対する頑強性が必要と考える.今後は長期にわたって高い頑強性を維持することを目的とし,表情特徴空間の進化・適応手法について検討する予定である.
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