研究実績の概要 |
これまでの研究では,乳児の顔認知の発達のメカニズムについて,近赤外分光法(Near-Infrared Spectroscopy;NIRS)を用いて一連の研究を行い検討してきた(Nakato et al, 2009; Nakato et al, 2011(a);Nakato et al, 2011(b)). 一方で,顔認知の発達は,10 歳以降の児童期に成人と同じ処理能力が発達することから,今回の研究では,幼児・児童の顔認知の発達についてNIRSによる計測を行うことを目的とした.ETG-4000(日立メディコ社) を使用し,健常な児童の脳活動計測を行った.実験では,児童においても,乳児と同じく顔認知に対する右側頭部での活動の優位性が認められるかについて検討した.実験刺激は乳児実験(Nakato et al, 2011(a))で用いた5 名の女性の笑顔と怒り顔の画像を提示した.ベース刺激も,乳児のNIRS実験と同じ野菜画像を提示した.計測位置は,国際式10-20 法に基づきT5 とT6 を中心とした左右両側頭部であった.刺激の提示時間は,ベース刺激20秒以上,テスト刺激は10秒であった.結果は,顔刺激に対して,右側頭部の領域内で脳活動が増加した.このことは,児童でも,乳児や成人と同じく顔刺激に右側頭部での活動が関与することが示唆された. さらに,注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; AD/HD)児を対象としたNIRS実験にも携わった(市川・仲渡ら,2012).実験は,健常児の実験と同じく,AD/HD児が笑顔または怒り顔を観察しているときの脳活動を計測した.その結果,AD/HD児では笑顔に対して左右両側頭部で脳活動が増加した.このことから,AD/HD児と健常児では,表情認識の神経基盤が異なる可能性が考えられた.
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