本研究では、植物の光環境感覚の中でも紫外光に着目し、太陽紫外線の下で生きる植物にとって必須なタンパク質であるCPD光回復酵素の、(1)紫外光に対する遺伝子発現誘導、(2)本酵素の紫外光による細胞内局在の光応答反応(特に葉緑体への移行機構)を解析し、紫外光に対する植物の環境感覚を解明することを目的として実施した。 1.「CPD光回復酵素遺伝子の光発現誘導」:イネ、シロイヌナズナを材料に、UVB~赤色光の各種LEDを用いて、発現誘導に有効な波長の探索を行った結果、イネ、シロイヌナズナでは、青色光、UVA、UVBが有効であった。そこで、UVB光受容体と考えられているUVR8変異体、クリプロクロム二重変異体cry1 x cry2、フィトクロム二重変異体phyA x phyB(長谷氏より供与)を材料に解析を行った。その結果、①cry1 x cry2変異体では、青色光によるPHRの発現誘導は阻害され、UVBによる発現誘導は確認された、②一方UVR8変異体では、大変興味深いことに、UVBのみならず、青色光による発現誘導も阻害することが分かった。これらの結果は、PHRの発現誘導は、少なくともクリプトクロムとUVR8の2つが関与し、UVBによるPHRの発現はCryが存在しなくてもUVR8を介して誘導されるものの、Cryを介した青色光による発現には、UVR8が直接的、または間接的に作用し、その存在が必須である可能性を見出した。 2.「CPD光回復酵素の細胞内局在に関する光応答反応」:Triple targeting protein であるCPD光回復酵素の核、ミトコンドリアへの移行シグナル配列を推定することはできたが、葉緑体移行のメカニズムを推定するには至らなかった。 現在組換え体を短時間に作製可能なゼニゴケを実験材料に変更して、葉緑体移行シグナル配列の推定を行っている。
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