研究領域 | 植物の環境感覚:刺激受容から細胞応答まで |
研究課題/領域番号 |
23120514
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福澤 秀哉 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (30183924)
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キーワード | クラミドモナス / CO2応答 / ピレノイド / 無機炭素濃縮機構 / ルシフェラーゼ / RNA-seq / MYB-転写因子 |
研究概要 |
(1)CCM1の相互作用因子として新規タンパク質CCM1-binding protein 1(CBP1)を同定した。CBP1は,CobWドメインとWWドメインをもっていた。CBP1の5箇所の配列をターゲットとした人工microRNA(amiRNA)を発現するプラスミドを作成し、緑藻クラミドモナスに導入した。合計で約500株の形質転換株についてcbp1遺伝子の発現低下が起こっているかどうかを検討したが、有意にタンパク質量が低下している株は得られていない。タグ精製したCCM1を質量分析にかけたところ,3箇所のリン酸化部位を特定した。この内の1つはCO2欠乏条件下でリン酸化されていた。3箇所のリン酸化部位を同時にアラニンに置換したCCM1を発現する株を作出し、CO2欠乏条件下のCO2ガス交換活性を調べたところ、野生株と優位な差は認められなかった。 (2)LCIBの葉緑体内での局在変化メカニズムを調べるために、遺伝子タギングにより局在が損なわれた株のスクリーニングを行った。約4,000株についてLCIB-GFP蛍光を観察し、CO2欠乏条件下でLCIBが異常な局在を示す株を2株得た。これらめ株では、LCIBはリング上の局在を示さず、ピレノイドの構造が崩れたり、複数のピレノイドが存在したりする細胞が観察された。 (3)CO2濃度変化に関わる17種類の培養条件においてRNA-seq法による転写応答を調べた。多くの制御タンパク質をコードする遺伝子が、CO2欠乏条件でCCM1依存的に誘導されることが分かった。また、恒常的に発現するある種の新奇MYB転写因子の発現は、ccm1変異株では全く見られないことを新たに見出した。また、CCM1のC末端を欠損した配列を持つ株は高CO2に順化できないことを見出した。 (4)CO2応答プロモーターとルシフェラーゼ遺伝子を融合させた配列を持つクラミドモナス株を作出し、CO2濃度変化に応じてルシフェラーゼ活性が上昇することを確認した。これを親株に用いて、遺伝子タギングによりCO2の濃度変化に応答できない変異株の単離を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CCM1と相互作用する因子CBP1等のノックダウン株の単離と機能解析は進んでいないが、多くのCO2濃度条件におけるRNA-seqの解析が進んでおり、発現データベースの拡充も進んでいる。またCCM1の下流で働くと考えられる新奇MYB転写因子の同定や、CCM1のC末端側が高CO2順化に必須であることを示唆するデータを得ており、当初の目的である二酸化炭素のセンシングメカニズムにつながる研究成果が出ている。 また、LCIBの局在が損なわれた変異株の単離に関して、当初は、セルソーターを用いた系を構築しようとしたが有効な結果は得られなかった。しかし、遺伝子タギングした薬剤耐性株について一つずつGFP蛍光を観察することで、局在が損なわれた変異株を複数単離でき,今後の原因遺伝子の解析が期待される。以上の理由から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
CCM1の相互作用因子であるCBP1等のamiRNAによるノックダウン株の作出が難しい場合は、RNAi法によるノックダウン株の単離や、過剰発現株、機能ドメイン変異株の単離を行う。ノックダウン株、過剰発現株、機能ドメイン変異株のCO2応答性および光合成特性を調べ、複合体構成因子や下流因子の機能を推定する。また、CCM1の相互作用因子にFLAGタグを付与し、FLAGタグ抗体を用いた免疫沈降を行うことで、CCM1複合体の上流因子あるいは下流因子が同定できるかどうかを検討する。引き続きCCM1のリン酸化部位の特定を行う。特に異なるCO2濃度条件で特異的にリン酸化される部位を特定し、部位特異的変異の導入により,その機能を推定する。 遺伝子タギングによりLCIB-GFPの局在が損なわれた変異株のスクリーニングを引き続き行う。すでに得られた2種類の変異株について、タグとの連鎖・コピー数を調べるとともに、光合成活性の測定、無機炭素取り込み活性の測定を行う。また原因遺伝子を同定し、相補実験を行う。
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