公募研究
植物における光環境認識の普遍性と多様性を、基部陸上植物である苔類ゼニゴケを用いて解析した。赤色光受容体フィトクロムの下流因子としてフィトクロム相互作用因子PIF様遺伝子を同定した。遺伝子の過剰発現では、光形態形成が抑制され、光質に依存せずに伸長成長をおこなった。相同性組換えによる遺伝子破壊系統は、構成的な光応答を示した。つまり、植物が陸上進出したときには、フィトクロムを介する核内での転写制御による信号伝達の原形は成立していたことを明らかにした。青色光受容体フォトトロピンの突然変異体を原糸体の光屈性異常および相同性組換えによる遺伝子破壊によって分離した。これらの株は、葉緑体の光定位運動も異常であった。発生過程における環境因子として、重力と光が重要である。無性芽から葉状体への移行時の背腹性決定には、青色光と重力が関与し、青色光が優先的であることが明らかとなった。この背腹性決定にはオーキシンが関与することも示唆されており、光および重力からオーキシンの不均等分布を介して背腹性が決定するモデルが考えられた。これは、被子植物の光屈性の過程と類似している点で進化的にも興味深い。生物時計の中心体を構成する遺伝子として単離していたTOCl、PRR、LHY様遺伝子発現が概日リズムを刻むことを明らかにした。これらの遺伝子の相同性組換えを用いた破壊系統を作出した。光環境識別は、植物の生存に重要な機構である。その原形は植物が陸上に進出したときに既に成立していたことから分子機構の側面からは普遍性が高いことがわかった。一方で、その働きは多様であり、植物種による生存環境や成長の違いにあわせて巧みに遺伝子が利用されていることもわかった。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、相同性組換を利用した遺伝子破壊系が確立し、実際に多数の遺伝子を破壊できた。その点では期待以上と言える。また、予定していた遺伝子の単離、突然変異体作成を完了した。その表現型解析による遺伝子機能の解析もほぼ計画通りに進展し、成果も順調に上がっている。
得られた突然変異体を最大限に活用し、形態的な表現型の観察に加えて、分子的な解析を重視していく。光受容体そのものの機能解析をより精緻に行うことに加えて、下流因子の解析も進める。ゼニゴケゲノム解析のデータを論文化し、遺伝子発現制御から環境応答に至る分子機構を記述し解析するときに混乱を生じないように、各遺伝子に系統的な名前と番号を付与する計画である。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件)
Journal of Plant Research
巻: 125(印刷中)
10.1007/s10265-012-0477-7