近年、我が国では大陸から飛来する越境大気汚染物質 (エアロゾル)の増加に伴う植物への影響が懸念されている。本研究では、北海道における越境大気汚染による森林への影響を明らかにすることを目的とし、エアロゾルの観測及び樹木葉表面に付着したエアロゾル観察を行った。 調査地は、札幌市中心部と北海道東部の摩周湖外輪山とした。両地域ともに、フィルターパック法により大気中のエアロゾルを捕集し、その成分を分析した。また、霧の多発地帯である摩周湖外輪山では、霧水捕集装置や霧の粒径測定用のフォグモニターを設置し、霧の発生時間や霧水の成分分析、霧の粒径を測定した。それと同時に、観測地付近に生育する樹木から葉を採取し、エネルギー分散型X線分光装置を装着した走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いて、葉の表面に付着したエアロゾルの観察、元素分析を行った。 札幌、摩周湖外輪山ともに、樹木の生育期間の大気エアロゾルの主成分は硫酸塩やNH4+であった。摩周湖外輪山の霧も同様であった。これは、霧粒にエアロゾルが取り込まれたためと考えられる。摩周湖外輪山の霧の粒径は比較的大きく、この地域では霧の沈着速度が大きいことが示唆された。 樹木葉に付着したエアロゾルの観察では、降雨による粒子の洗浄効果を解明した。あらかじめ対象となる葉表面を拭いておき、降雨直後や数日間の無降雨後に採取し、観察及び分析を行った。その結果、降雨前は葉表面に土壌粒子や硫酸塩が付着していたが、降雨後に採取した葉では土壌粒子はほとんど観察されず、硫酸塩の濃度は減少していた。葉表面に付着した粒子は降雨により洗浄されると考えられる。摩周湖外輪山では、霧による葉表面の粒子の洗浄が示唆された。これらの結果から、北海道では現在、エアロゾル濃度は本州の他地域より低く、葉に付着しても降雨や霧により洗浄されることから、ほとんど樹木に影響がないと考えられる。
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