研究実績の概要 |
RalはRasファミリーに属する低分子量GTP結合タンパク質であり、細胞の増殖、生存、遊走など様々な細胞機能を担っている。他のGタンパク質と同様に、RalはGTPの結合した活性型とGDPの結合した不活性型の2つのコンフォメーションをとり、その活性化、不活性化はそれぞれグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、GTPase活性化タンパク質(GAP)により触媒される。Ralを不活性化する酵素、RalGAPの分子実体は長らく未知であったが、申請者らはその分子同定に初めて成功した。RalGAPは約2,000アミノ酸からなる触媒サブユニットαと、約1,500アミノ酸からなる調節サブユニットβより構成される新規ヘテロ複合体であった。RalGAP複合体のゲル濾過での分子量は1メガダルトンを超えることから、RalGAPは既知のGAPの中では最も巨大かつ複雑な構造をとると考えられ、細胞内において様々なシグナルを受容しRalへと伝達する場となっていると予想される。本研究では、RalGAP複合体の構造、およびその活性制御機構を明らかにすることを目的とした。 RalGAPα1、β各サブユニットはそれぞれ240 kDa、170 kDaと大きなタンパク質であり、全長タンパク質を大腸菌発現系により精製することは困難であった。申請者はSf9昆虫細胞発現系を用いて、ヒトα1、β遺伝子組み換えバキュロウイルスの共感染により全長α1-β複合体を精製することに成功した。また、欠失変異体を用いた解析よりサブユニット間の結合領域を明らかにした。これをもとにGAP活性を有する部分複合体の精製、結晶化に向けた発現系の構築を遂行した。 また、膀胱癌においてα2サブユニットの発現が喪失しており、Ralが膀胱癌の悪性化(浸潤・転移)に関与していることを明らかにした。
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