研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
23121504
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
海野 昌喜 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 准教授 (10359549)
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キーワード | 毛髪キューティクル / S100A3 / PAD3 / 結晶 / 構造 / 複合体 / 特異的基質認 / シトルリン化 |
研究概要 |
毛髪キューティクルに局在するS100A3蛋白質はEFハンド型Ca^<2+>結合蛋白質の一種であり、システイン含量が10%と高く、Zn^<2+>と高い親和性を示す点で、他のS100蛋白質ファミリーの中で特異な蛋白質分子である。S100A3のArg51が脱イミノ化酵素(Peptidylarginine deiminase,PAD)のアイソザイムIII型(RAD3)によりシトルリン化されると、元々二量体だった分子が四量体に構造変化しつつ、Ca^<2+>の親和性が向上する。PAD3による基質認識機構とS100A3の四量体形成機構を明らかにするため、それらの分子の結晶構造解析を行った。 まず、S100A3を昆虫細胞で発現させ、精製・結晶化を行った。その後、X線結晶構造解析により構造を決定し、分子内に2つのジスルフィド結合を発見した。そのジスルフィド結合の重要さを明らかにするため、ジスルフィド結合を欠損した変異体を作製し、機能解析と構造解析を行った。一つのジスルフィド結合(SS1)欠除した変異体は、Ca^<2+>結合能が下がり、もう一つのジスルフィド結合(SS2)を欠除した変異体は、逆に親和性が増加した。SS1欠除変異体の構造解析の結果、分子内にβシート状の構造が新たに形成され、柔軟性を失っていることがわかった。その結果、Ca^<2+>結合に伴う構造変化が出来にくくなるため、Ca^<2+>の親和性が低くなるのだと考えられる。 また、S100A3のArg51を特異的にシトルリン化する酵素PAD3の結晶化・X線結晶構造解析を行い、2.95Å分解能で構造解析に成功した。構造は、PAD4を初期モデルとした分子置換法で行った。全体構造は似ているが、活性部位など、更に詳細な構造解析が重要である。現在、基質結合型の結晶化を目指して、条件をスクリーニングしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、S100A3-PAD3の共結晶化を行う予定だったが、現在それには至ってはいない。しかし、PAD3単独の結晶と構造を得ていることや、Ca^<2+>-結合型S100A3の結晶を得ていることから、概ね順調だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、S100A3の一部を切り取ったペプチドとの共結晶化を行うことで、S100A3-PAD3複合体の構造が得られなかったとしても、基質認識機構を明らかにすることに一歩近づきたいと考えている。 また、S100A3に関しては、Ca^<2+>結合型の構造解析を行い、さらにZn^<2+>の溶液に浸漬して、Zn^<2+>結合型S100A3の構造も得る予定である。 それらから、特異的シトルリン化機構や、金属イオン親和性向上機構を明らかにしたい。
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