研究実績の概要 |
昆虫細胞培養により得られたS100A3の構造は、分子内に二つのジスルフィド結合を有していた(SS1とSS2と呼ぶ)。SS1とSS2の生理的意義を解明するため、それらをそれぞれ削った(対象のCysをAlaに変異した)変異体のカルシウム結合能とPAD3との反応性を調べたところ、SS1を欠失した変異体では、カルシウム結合能が下がり、PAD3によるシトルリン化を受けにくくなった。一方、SS2を欠失した変異体では、カルシウム結合能もシトルリン化され安さも上昇した。このように、S100A3内の二つのジスルフィド結合が、カルシウム恒常性維持を相補的に制御していることを見出した。また、SS1に関しては、カルシウム結合に有利な構造を形成するため、必要な形で必要な場所にあることも明らかになった。さらに、高分解能の構造では、N末端のアセチル化も原子レベル構造で確認でき、大腸菌発現では成されないこれらの翻訳後修飾が、S100A3の機能にとって重要であることも明らかになった。 PAD3のアイソザイムであるPAD1やPAD2による基質認識の違いを明らかにするため、まず、PAD3の大量発現・精製・結晶化を行った。PAD3の結晶は、少なくとも3つの全く異なった結晶化条件で得られたが、得られた結晶は、いずれも同じ結晶系であった。空間群R3, a = b = 114.97 Aring;, c = 332.49 Aring;で、非対称単位に二分子(二量体で働くので、一つの生物学的単位)が含まれていた。現在までに最高2.95Aring;分解能の回折データを得て、この分解能で構造も決定した。結晶の対称性が高いので、回折データのredundancyを容易に稼げるうえ、非結晶学的平均化法で、電子密度図は分解能の割に明瞭なものが得られた。
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