平成24年度の本新学術領域研究では、既知タイプとは異なる新奇低分子量G蛋白質群、すなわち、従来の刺激依存性GDP-GTP交換によるコンホメーション転換には依らないGTP結合待機型G蛋白質(Arfファミリーに属するArl8、RasファミリーのDi-Rasなど)について、生化学、分子生物学、細胞生物学的な解析を進めると共に、その一部については構造学的な考察及び解析も加えた。1.リソソームに局在するArl8が、後期エンドソームに加えてリソソームとファゴソームの融合に必須の役割を果たすことを解明した。さらに、線虫を用いた遺伝学的解析から、Arl8と協調して機能する因子として、酵母で液胞の融合を制御するHOPS複合体の構成因子Vps39、41を同定した。2.H-、K-Rasなどの代表的なRasとは異なり、Di-Rasはその大部分がSmgGDSとヘテロ二量体を形成して細胞質の可溶性画分に存在すること、また、Di-Rasの有するGTP/GDP結合親和性は、SmgGDSとの複合体形成によって顕著に低下することを見出した。GTP結合型Di-Rasは、RapのGEFとして先に同定されたEpac2aのRAドメインに結合し、Epac2aを細胞膜に局在化させた。さらに、東大・院薬の清水敏之教授との共同研究から、X線小角散乱の解析結果(DAMMINモデル)に基づくDi-RasとSmgGDSの複合体の予測構造を取得した。3.低分子量G蛋白質Rac1において、野生型のDi-Rasが示すような著しく速いGDP解離活性をもつヒトの変異体を見出し、Rasで見られようなGTPアーゼ活性の低下に依らない活性型点変異が、腫瘍形成に介在することを解明した。
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