研究概要 |
C型感染ウイルスは日本だけで約200万人の患者がいるが,ワクチンがなく,ウイルス研究用の小型動物もなく(チンパンジーだけ),治療のための研究が困難を極めている。細胞生物学,構造生物学の研究手法により,ウイルスの感染メカニズム、ウイルスの複製,脂肪肝、肝硬変、肝癌にいたる細胞内のシグナル伝達のメカニズムの解明に寄与するため,構造生物学,細胞生物学の研究を目指している。NS5AはC型肝炎ウイルスの非構造蛋白質の一つで,ウイルスの複製に必須の蛋白質である。NS5Aはヒトのタンパク質FKBP8(ヒトの機能未知蛋白質)と肝細胞内で複合体を形成し,それがC型肝炎ウイルスのRNAゲノムの複製,ウイルス粒子生産に必須であることがわかっている。ウイルス複製に必須であるNS5AとFKBP8の複合体の結晶解析とそれにもとづいた細胞生物学研究を目的としている。 本研究において,NS5AとFKBP8の単独および複合体のX線結晶解析のための結晶化を試みた。1.NS5A全長タンパク質の結晶化,2.ヒトのタンパク質FKBP8の結晶化,3.NS5Aタンパク質ドメイン1とFKBP8の複合体の結晶化を試みて,FKBP8の微結晶が得られたが,他のものは結晶化に至っていない。引き続き,結晶化をおこなう。 結晶化以外の細胞生物学研究では,C型肝炎ウイルスの株の違いによるウイルス複製のFKBP8依存性を調べた。遺伝子型1b型O株ではFKBP8依存的であるが,遺伝子型1b型N株ではFKBP8非依存的である。1b型N株のFKBP8非依存性は,FKBP8様の因子の存在がC型肝炎ウイルスのレプリコン細胞系を用いた実験で示唆された。
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