本研究では、X線結晶構造解析法および極低温電子顕微鏡による画像解析法と、遺伝学的機能解析法とを上手く組み合わせることで、サルモネラ菌べん毛フック完成シグナリング複合体形成とそれに伴う蛋白質輸送装置の輸送スイッチの分子機構を原子レベルで解明することを目指している。本年度の主な成果は以下に示す。 1. FliJの分子表面に露出している、非常に高く保存された領域がFlhAとの相互作用に直接関わっていることが明らかとなった。 2. FlhAのC末細胞質領域(FlhAc)のD1およびD2ドメインの境界面に保存されている疎水性の窪みに存在するPhe-459をアラニンに置換すると、べん毛繊維形成に関わる蛋白質の輸送量は著しく低下したが、フック形成に関わる蛋白質の輸送量は低下しなかった。さらに、F459A変異により、繊維形成に関わる蛋白質に特異的な分子シャペロンに対する結合親和性が低下したことが判明した。このことから、FlhAcは輸送スイッチとして働くことが示唆された。 3. FlgNのSe-Met誘導体結晶や通常の浸漬法による重原子同型置換体結晶を作製したが、位相決定できなかった。そこで、Cysを導入したFlgN変異体を6種類作成し、そのうちいくつかのものから水銀置換体結晶を得ることができた。FlhAc(F459A)のnative結晶を得ることができた。 4. 極低温電子線トモグラフィー法により野生株およびfliH-fliIバイパス変異株の輸送装置の構造解析を進めた。トモグラム数が十分得られなかったために分解能は極めて低かったが、FliI ATPaseであると考えられる電子密度を同定することができた。
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