細胞増殖において、増殖因子受容体の下流で活性化するMAPK経路およびmTORC1経路が主要な役割を担う。しかし、これらの経路は多様な細胞応答において機能することが知られ、それら経路の選別機構はまだ明らかではない。我々は、後期エンドソーム/リソソームに局在する膜アダプター蛋白質p18を同定し、p18複合体が細胞増殖に必須であること、p18がMEK1特異的な足場蛋白p14-MP1を後期エンドソーム/リソソームにアンカーすること、さらに、mTORC1の活性化にも必須の役割を担うことなどを見いだした。これらのことから、細胞の増殖や成長シグナルがp18を介して制御されることが示唆されている。そこで本研究では、p18とp14-MP1の複合体、さらにmTORC1との複合体の分子構造を解明することによって、p18を介するシグナル制御機構の分子基盤を明らかにすることを目的とした研究を行い以下の成果を得た。1)大腸菌の発現系を用いてp18-MP1-p14複合体の調整を試みてきたが、p18がきわめて難溶性のため、可溶化状態での三者複合体を調製することは困難であった。そこで、リフォールディングによる再構成実験を試み、p18とp14の二者複合体の高度精製に成功した。現在その構造解析の準備を進めている。2)種々のp18変異体をマウス線維芽細胞に発現させ、p18の機能発現に重要な領域の特定を行った。その結果、N末端のdi-leucine motifがp18の後期エンドソーム/リソソームへの局在化および機能発現に必須であること、及び、C末端の40残基の構造がmTORC1複合体との相互作用に必須であることが明らかになった。現在、機能発現に必須のアミノ酸残基およびその修飾の状態を詳細に解析することによって、構造解析に向けた複合体調製法の至適化を進めている。
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