セマフォリンは、神経軸索のガイダンス因子として発見されたタンパク質であり、細胞外において受容体プレキシンに結合することによって、軸索伸長を反発させるシグナルを伝える。セマフォリンとプレキシンに関する構造解析は医学的な重要性から精力的に行われており、2010年には研究代表者のグループを含めて計3つのグループがほぼ同時期に、2者の複合体構造を報告している。一連の構造解析の結果から、シグナル伝達時のセマフォリンとプレキシンは、2対2のヘテロ4量体構造を形成することが確かめられたが、複合体形成がいかにしてプレキシンの活性化に繋がるのかは未だ解明されていない。そこで本研究では、プレキシン活性化機構の解明を最重要課題として、その細胞外領域の構造解析に取り組んだ。本研究では、複雑な翻訳後修飾を受けたプレキシン細胞外領域をより天然に近い状態で発現させるため、動物細胞発現系を用いてタンパク質発現を行った。また、目的遺伝子を宿主細胞の染色体に組み込ませた状態にする安定発現株を樹立して、一定の収量のタンパク質が安定して得られる系を構築した。安定発現株の大量培養は、BelloCellという高密度培養装置を利用して行い、数ヶ月という長期間にわたって、継続的に培養上清を回収することが可能となった。本研究では、このような培養システムを用いることで、複数種類のプレキシン細胞外領域断片について、構造解析に使用可能な量のタンパク質試料を得ることができた。発現させた部分断片の一つについては単結晶を得ることにも成功しており、今後条件の最適化を行い、構造決定を進めて行くことを計画している。また、本研究では、様々なサブクラスに分かれるセマフォリンとプレキシンの結合選択性の解明に向けた構造解析も行っており、構造未知のサブクラスのセマフォリンについて、構造決定可能な分解能の結晶を得ることにも成功した。
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