Gタンパク質を介するシグナルは、数多くのホルモンや神経伝達物質によって誘導される様々な細胞応答において働いており、そのシグナル伝達構成因子を標的とした薬剤が広く使用されている。近年、私共の研究等から新しいGタンパク質シグナル制御機構が見つかってきた。本研究は、新たなGタンパク質シグナル複合体を同定し、その構造と機能を明らかにして、創薬研究の基盤を築くことを目的としている。本年度、以下の成果が得られた。(1)リガンド不明のオーファンGPCRの一つであるヒトGPR56に対するモノクローナル抗体の作成と評価を行ったところ、ヒトグリア腫細胞U87-MGの遊走を阻害する抗体がいくつか得られた。(3)GPR56の細胞外ドメインをN末及びC末より順次部分欠失した変異体をHEK293細胞に発現させ免疫染色とウエスタンブロット解析を行ったところ、アゴニスト様に働く3つの抗体はN末側100アミノ酸あるいは細胞膜近傍の100アミノ酸を認識していることが明らかとなった。(3)抗体による細胞遊走阻害作用はGq特異的阻害剤YM-254890、Rhoキナーゼ阻害剤によりキャンセルされた。(4)これらの抗体が細胞内カルシウム上昇を引き起こし、その効果がYM-254890により阻害されることも判明した。以上、GPR56を介してGqが活性化されカルシウム応答が引き起こされるとともにRhoキナーゼの活性化が起こると遊走が阻害されることが明らかとなった。(5)ショウジョウバエの原腸陥入に異常を示すGタンパク質制御分子Ric-8の変異体atxを用いた解析を進めたところ、atx変異により哺乳動物Gα12のショウジョウバエホモログCtaとRic-8の相互作用が減弱することが明らかとなった。(6)ショウジョウバエS2細胞を用いた解析から細胞形態変化やミオシンとCtaの局在をRic-8が調節していることが判明した。
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