病原微生物と宿主との間には必須栄養元素である鉄の争奪戦がくりひろげられており、病原菌感染を治療するうえでも鉄代謝は鍵となっている。鉄の取り込みシステムで重要な役割を担っているタンパク質を分子レベルで理解するため、本研究では病原菌でヘムを感知する二成分情報伝達系のヘムセンサータンパク質であるChrS/ChrAと、ABCファミリーに属するヘムトランスポーター (HmuTUW)複合体の機能構造解析を進行させてきた。 Hisタグを付けて大腸菌で発現させたChrSは界面活性剤であるデシルマルトシドによって高効率で可溶化および精製が可能である。これまでのChrS/ChrAの機能解析によって、リガンド(ヘム)の特異性、ヘム依存的なリン酸化活性能、ヘム結合に必須な残基を明らかにしてきた。ChrS単独での結晶化に成功しており、分解能7 AのX線回折スポットを確認した。しかし、再現性よく結晶を得る事が困難であった。一方、ChrAは可溶性のタンパク質であり、GST融合体として発現・精製・結晶化方法を確立した結果、単独での構造決定に成功した(未発表)。 病原菌由来のヘムトランスポーターは3種類のタンパク質サブユニットが1:2:2複合体で機能する。そのうち、ペリプラズム空間でヘムを捕捉するサブユニットについて、アポおよびホロ型の立体構造を高分解能で決定した。また、膜貫通領域とATP結合サブユニットを含む結晶化に成功し、X線回折実験を行なった結果、分解能が3.6 A程度の反射データが得られ、分子置換法による位相計算によって部分的なモデル構築が可能となった。
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