研究領域 | 細胞シグナリング複合体によるシグナル検知・伝達・応答の構造的基礎 |
研究課題/領域番号 |
23121537
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研究機関 | (財)高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
熊坂 崇 (財)高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主席研究員 (30291066)
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キーワード | ストレス応答 / 微生物 / 分子間相互作用 / 結晶構造 |
研究概要 |
細胞の増殖と代謝を抑制し定常期に移行するストレス応答の機構は微生物に普遍的であり、環境適応に加え毒性発現や二次代謝物生産に関与し微生物の生活環制御に基本的な役割を担っている。本研究では原核生物の一般ストレス応答系について、構造に基づいた遺伝子改変による表現型への影響を直接観察するための分子基盤の構築を目標として、遺伝子改変が容易な枯草菌の情報伝達機構を蛋白質の構造解析と機能解析を組み合わせて解明することを目的とする。このため、以下の二点に着目して研究を進めており、今年度の実績について以下に述べる。 1.ストレス応答にかかわる分子複合体構造: ストレス応答を促すキナーゼRsbTについては今年度初めて回折実験可能な結晶が得られた。分解能はまだ低く解析には至っていない。その基質RsbSの結晶化は条件検討を行ってきたものの依然として分解能が不足している。 2.栄養飢餓ストレス分子の同定とその作用機序: RsbQ・RsbPは栄養飢餓シグナル分子を受容するタンパク質である。まずRsbQについては、昨年度までに得られた高分解能構造に基づいて、新たに変異体を作成してその反応機序を詳細に解明した。その結果、3つあるチャンネル構造の機能的意義を確認することができた。また、RsbPについては、現在得られている非活性型のホスファターゼドメイン構造に基づき、N末端部を伸長させた活性型タンパク質の発現・精製に成功した。現在結晶化を進めており、すでに得られている他のドメイン構造と溶液散乱構造から、全体構造と活性制御機構を明らかにしたい。 また、未知の受容分子を特定するため、定常期枯草菌の細胞抽出液による酵素活性測定を行ってきた。活性画分は得られたものの、再現性に乏しく、分子同定には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の2.のテーマのうち、RsbPQと相互作用する栄養ストレスシグナル物質の同定を目指し、定常期枯草菌の細胞抽出液による酵素活性測定を行った。その結果を受けて、候補分子を絞り込んで実施してきたが、さまざまな手法で評価したところ、シグナル伝達には寄与しない可能性が高いことが明らかとなった。活性測定実験は再現性に乏しい問題があり、現在対応を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている2種のタンパク質(RsbT/RsbS)について、アミノ酸修飾や活性測定などを行って構造機能解析をさらに進める。また、RsbPQと相互作用する栄養ストレスシグナル物質の探索については、蛋白質発現系を大腸菌のみから枯草菌の系にも広げ、枯草菌由来物質を結合した状態でのタンパク質生産とそれによる同定を試みる。 また、今年度に導入した培養装置を活用して、構造解析の対象を拡大し、結晶化スクリーニングを効率化する。特に、転写制御に重要な分子の分子間相互作用を解明する目的で、Rsb系によって制御を受ける酵素RNA polymeraseの発現精製系を立ち上げ、結晶化を試みる。
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