本研究では原核生物の一般ストレス応答について、未知のシグナル分子の探索と構造に基づく遺伝子改変を表現型で観察するための分子基盤の構築を目標として、枯草菌の情報伝達機構に関わる蛋白質群の構造機能解析を目的とし、次の2点の研究を進めた。1) ストレス応答にかかわる分子複合体構造:環境応答ストレス情報伝達の巨大ハブ分子であるStressosomeを中心とした結晶構造解析による分子活性制御機構,2) 栄養飢餓ストレス分子の同定とその作用機序:未知の飢餓シグナル分子のリレーによる情報伝達機構につき、分子同定と構造に基づくマルチドメインタンパク質の活性化機構. 「1)ストレス応答に関わる分子複合体構造の解明」について、Stressosomeを構成するキナーゼRsbTとその基質でSTASファミリに属するRsbSの機能解析と結晶化を行った。その結果、RsbTだけでなくRsbSの機能としてNTP分解活性を有することが明らかとなり、これを受けてRsbS-NTP複合体の結晶化を進めた結果、従来の六方晶系の結晶に加え、新たに斜方晶系で3.0Aの回折能をもつ結晶を得た。現在、ハロゲンで修飾したNTPなどを用いた誘導体結晶の回折データ測定と位相決定に取り組んでおり、並行して得られたNTP活性測定の結果と合わせて、RsbSの構造機能相関の解明を進めている。 一方「2)栄養飢餓ストレス分子の同定とその作用機序の解明」については、RsbPの活性化機構を構造の見地から解明するため、我々が解析した非活性型のホスファターゼドメイン構造に基づき、活性化に関与することが報告されているN末端部のヘリックスを伸長した活性型タンパク質の発現系の構築と結晶化を進めた。得られたタンパク質は活性を持たず、また結晶は得られたものが十分な回折能を与えず、解析には至らなかった。活性化に関わる部位の厳密な同定が必要と考えている。
|