研究領域 | サンゴ礁学-複合ストレス下の生態系と人の共生・共存未来戦略- |
研究課題/領域番号 |
23121701
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
奥山 英登志 北海道大学, 大学院・地球環境科学研究院, 准教授 (90125295)
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キーワード | サンゴ / 白化 / 酸化ストレス / (4)多価不飽和脂肪酸 / 膜遮蔽効果 |
研究概要 |
2011年度の研究により、1) 過酸化水素のアナログであるtert-butyl hydroperoxide(t-BHP)に対する最少阻害濃度(MIC)の測定により調べた褐虫藻の抗酸化耐性(又は抗酸化性)は、白化しにくいサンゴに由来するS. kawagutii CCMP,2468の方が、白化しやすいサンゴ(Stylophora pistillata)に由来するS. microadriaticum CCMP 2467よりも、高いことがわかった。2) CCMP 2468はCCMP 2467に比べ、総脂質中のDHAの含量が高く、特にリン脂質(ホスファチジルコリン)に含まれるDHAの含量が高く、逆に葉緑体糖脂質中の炭素数18の多価不飽和脂肪酸(C18PUFA)の含量は低かった。3) これらの結果はDHA含量の高いリン脂質をもつCCMP 2468では、細胞外のt-BHPに対して、より効果的に膜遮蔽効果が機能することを示唆している。さらに4) C18PUFAに富む糖脂質は構造的に膜遮蔽効果を示さないと考えられることから、CCMP 2468で糖脂質中のC18PUFA含量が低いことは、葉緑体のROS耐性が相対的に高くなると予想され、5) 以上の結果から、少なくとも褐虫藻においては、DHA含有リン脂質は膜遮蔽効果によって細胞外ROSの流入を抑制し、加えて葉緑体脂質の不飽和度を下げることによってROSによる酸化障害を軽減し得ると考えている。2012年度は上記の結果を踏まえて、1) 白化しやすいサンゴとしてオトメミドリイシ、白化しにくいサンゴとしてユビエダハマサンゴ、両者の中間の性質を示すハナヤサイサンゴの三種のサンゴを材料にし、サンゴ組織と褐虫藻を分離し、それぞれの脂質組成、脂肪酸組成、各脂質クラスの脂肪酸組成を分析し、白化のしやすさと脂質組成、特にリン脂質の脂肪酸組成との関係を明らかにすること、2) 上記の三種のサンゴの高温、強光、高塩濃度などストレスを与え、生存に及ぼす影響をみるとともに、脂肪酸組成を分析すること、3) 2)のストレス下での活性酸素分子種の生成を定性的に調べること、により、4) 目的とするサンゴの白化耐性と長鎖多価不飽和脂肪酸の膜遮蔽効果との関係を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サンゴ培養の系かできたこと。褐虫藻とサンゴを別々に扱う実験からサンゴから褐虫藻を分離し、サンゴ本体と褐虫藻の各々を分析できるようになったこと。
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今後の研究の推進方策 |
変更点はない。組織内の活性酸素の濃度測定が、従来考えていた発光法による方法では非常に困難であることがわかったので、別法、例えば活性酸素のより安定した誘導体化によるHPLCによる測定など、を試みる。
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