分布パターンや形成を調節するシグナルなど共通部分の多いリンパ管と血管・神経の間の相互作用を司る分子機構については未解明な部分が多く残されており、それを解明することが本申請課題の目的である。平成24年度は下記の研究成果を得た。(1) 血管・リンパ管系と神経系の形成におけるBMPシグナルの役割の検討:リンパ管の形成に対してBMP9が抑制的に機能することを膵臓癌移植モデルに加えて、横隔膜を用いた炎症性リンパ管新生モデルを用いて明らかにした。(2) 中枢神経系におけるリンパ管形成抑制因子の探索:ヒト皮膚由来リンパ管細胞にBMP9を加えたときに発現が変化する因子をcDNAマイクロアレイを用いて網羅的に探索した結果、リンパ管形成のマスター因子であるProx1転写因子がBMP9によりその発現が低下することが見出された。Prox1の発現を低下させるとリンパ管内非細胞の数が減少することから、Prox1がBMP9の効果を発揮するための実行因子であることが示唆された。(3) リンパ管系が血管系と神経系のワイヤリングに与える効果の検討:BMP9ノックアウトマウスを解析した結果、BMP9遺伝子の欠損によりリンパ管の形成が亢進することが見出された。 以上の研究成果はリンパ管の形成機構をより詳細に解明することにより、リンパ性浮腫やがんリンパ節転移の治療につながるという点で意義は大きいとともに、未解明の部分が多いリンパ管と神経との相互作用の理解に向けて進展があったという点で本領域へ貢献したと考えられる。
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