研究実績の概要 |
研究代表者はES細胞及びiPS細胞を用いた心血管分化再生研究を行ってきた。本研究は、「細胞分化の観点から血管と神経に共通な新しい分子群を同定し、血管、特に内皮細胞と神経分化の関連性に関して新たな理解をもたらす」ことを目的とし、1)オピオイドの内皮分化・血管形成における意義、2)cAMPシグナルと内皮・神経分化、3)Notch-beta-cateninシグナルと内皮・神経分化、4)新規動脈化誘導シグナルと神経分化、5)神経作用性物質の内皮分化における意義、の5項目の検討を行った。特に 1)に関しては、オピオイドの成体における意義を検討するため、カッパオピオイド受容体(KOR)欠損マウスにおける腫瘍血管新生を検討し、KOR欠損マウスにおいては腫瘍血管形成が亢進していることを見いだしている。 2)に関して、PKAがVEGF受容体発現を亢進させる機構の解析を行い、Ets転写因子群のEtv2遺伝子にcAMP応答配列が存在し、PKA下流で活性化されたCREBが同配列に結合し、Etv2発現を誘導することにより、種々のVEGF受容体遺伝子発現を誘導し、内皮分化を惹起することを明らかにした(Yamamizu, Stem Cells, 2012)。また、RSK4がPKAに結合してその活性を抑制することにより、血管内皮細胞の分化に対する新しいnegative regulatorとして働いていることを明らかにした。生体における血管発生過程においてもRSKは内皮分化抑制的に作用しており、RSKの作用を阻害剤により抑制すると血管内皮分化と血管形成の異常な促進が観察された。RSKの血管形成における新しい意義を明らかにした。また4)に関して、内皮細胞と神経細胞に共通して発現するmicroRNAを同定し、その標的分子の同定と機能確認を進めている。このように本研究において着実な進捗を認めている。
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