公募研究
膜型増殖因子HB-EGFの結合蛋白質として同定したメタロプロテアーゼnardilysin(NRDc)が、細胞外ドメインシェディングの活性化因子であることを明らかにしてきた。NRDc欠損マウス(NRDc-/-)は、中枢及び末梢神経において軸索成熟不全及び髄鞘低形成を呈し、髄鞘形成主要制御因子であるニューギュレン1の切断を介して髄鞘低形成を呈することが示唆された。循環動態の調節や体温調節は、交感神経を介した血管収縮により制御され、機能的な「神経-血管ワイヤリング」である。NRDc-/-は、著明な低血圧・徐脈・低体温を呈し、交感神経調節系の異常が強く示唆される。NRDc-/-の神経系の表現型と低血圧・徐脈・低体温の表現型との関連について調べるため、まず交感神経の標的臓器への分布様式を検討した。NRDc-/-では心臓・血管・褐色脂肪組織への交感神経終末の異常分布(進入)を認めた。また、血清カテコラミン値は上昇し、テレメトリーシステムを用いた解析の結果、同マウスにおいて交感神経活動が亢進していたことから、各々の臓器における一次的異常(低血圧・洞房結節異常による徐脈・褐色脂肪組織の機能不全による低体温)に対する代償機構として交感神経活動の亢進ならびに標的臓器への交感神経終末の異常分布が起こったと考えられた。また、同マウスの交感神経節ニューロンのアポトーシス不全と増殖の亢進が認められ、その機序として交感神経に発現する神経栄養因子受容体のシェディング不全が存在することが判明した。以上を踏まえ、NRDcは交感神経系及び標的臓器において恒常性維持を調節する重要な鍵分子でありと考えられるため、今後は各々の臓器特異的な役割を個別に解析し、統合して検討する方針である。
2: おおむね順調に進展している
実験計画通りに進んだ点:免疫電顕を用いた交感神経終末の形態の評価、テレメトリーシステムを用いた交感神経活動の評価、については計画書通りに実験が進み、確定的な結果を得ることができた。一方で、コンディショナルノックアウトの作製については、現時点でNRDc-foxedマウスができたところであり、臓器特異的ノックアウトマウスを作製するまで、もう少し時間がかかると考えられる。
各臓器(心臓・血管・BATにおけるNRDcの機能と交感神経系におけるNRDcの機能の詳細をさらに個別に解析しつつ、統合的理解を図ることを目的とする。(1)臓器特異的コンディショナルノックアウトの作製:NRDc-floxedマウスと心臓・血管・交感神経特異的Creマウスとの交配を本年度中に行う予定である。(1)-2:交感神経特異的NRDc過剰発現マウス(THプロモーター)の作製:THプロモーターのコンストラクト供与を海外の論文著者に問い合わせ中であるが半年以上返事がないため、当初の予定を変更し、TH-Creと同様に交感神経系に特異的に発現するDBH(ドブタミンβ水酸化酵素)のCreマウスの供与を受けるよう手続きを行っている。(2)バイオイメージング:全身性NRDc欠損マウスにおける血管-神経の相互作用を、バイオイメージングを使って検討する。具体的には、血管収縮作用を持つ薬剤を投与した際の交感神経と血管収縮の様子を、二光子顕微鏡を用いて観察し、野生型と比較する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
EMBO Molecular Medicine
巻: 4 ページ: 1-16
10.1002/emmm.201200216
http://kyoto-u-cardio.jp/kisokenkyu/sentan-bunshi/