研究領域 | 血管ー神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構 |
研究課題/領域番号 |
23122523
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
大久保 直 北里大学, 医学部, 講師 (10450719)
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キーワード | 咽頭弓 / 分節 / 舌咽神経 / 鰓弓動脈 / Ripply3 / Tbx1 |
研究概要 |
咽頭弓は、脊椎動物の胎児期に一時的に咽頭部に現れる分節構造で、その分節パターンが正常に形成されることが、その後の様々な器官形成に重要である。咽頭弓は前側から順に5~7対形成され、各咽頭弓には鰓弓動脈が走行する。また、第1咽頭弓に三叉神経、第2咽頭弓に顔面神経、第3咽頭弓に舌咽神経、第4咽頭弓には迷走神経が伸長する。このように、咽頭弓の分節性は鰓弓動脈の走行や脳神経軸索の伸長ルートを規定したり、またそれらを束化・配線分けするための構造的、分子的インフラストラクチャとして機能すると考えられる。それゆえ私は、咽頭弓を血管-神経のワイヤリング現象解明のひとつのモデルとして研究を進めている。 平成23年度は、咽頭弓の形成異常を引き起こすRipply3ノックアウトマウスを用いて、咽頭弓分節に伴う頭部神経の形成過程について形態学的解析を行った。その結果、Ripply3ノックアウトマウスでは、胎生9.5~10.5日にかけて第3咽頭弓の形成異常により、舌咽神経の走行が異常になることを明らかにした。さらに発生が進むと、本来舌咽神経が投射するはずの舌後方には、全く軸索が投射していないことを見出した。また、舌咽神経節の形成、および神経軸索の伸長に関わる神経成長因子(BDNF,NT3)や他のシグナル分子、その受容体遺伝子の発現について解析を行った。一方、Ripply3ノックアウトマウスとは異なる咽頭弓の形成異常を示すTbx1ノックアウトマウスについても形態学的な検討を行い、神経軸索の走行異常を見出した。さらに、咽頭弓形成に関わる候補遺伝子を組織特異的に遺伝子操作するため、マウスRipply3遺伝子のプロモーター配列にcreをつないだトランスジェニックマウスを作製した。さらにRosa26R-LacZマウスとの交配により、creの活性を検討し、2ラインまで絞り込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ripply3ノックアウトマウスの解析から、舌咽神経の走行異常を見出した。この結果は、舌の後方を支配する舌咽神経の発生および投射組織の分化に咽頭弓の正常な分節化が必須であることを示唆している。この観点から、咽頭弓の分節異常にともなう鰓弓動脈と神経軸索の走行異常について、今後シグナル分子等の発現に注目して研究を進めていく基盤が整った。また、マイクロアレイの結果も合わせて、咽頭弓分節に関与する新たな分子の探索が進行している。さらに咽頭弓特異的な遺伝子操作のためのcreマウスができつつあることから、計画がおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Ripply3ノックアウトマウスの舌咽神経節の形成、および神経軸索の伸長に関わる神経成長因子(BDNF,NT3)や他のシグナル分子、その受容体遺伝子の発現について詳細な解析を進める。Tbx1ノックアウトマウスについても舌咽神経軸索の走行や舌の組織形態学的に検討を行う。これらの解析から咽頭弓分節の機能的役割を明らかにしていく。さらに、咽頭弓形成に関わる候補遺伝子を組織特異的に操作(欠損)するため、マウスRipply3遺伝子のプロモーター配列にcreをつないだトランスジェニックマウスを用いたコンディショナルノックアウトマウスを作製する。これらの解析から、咽頭弓において鰓弓動脈や神経軸索を束ね、走行ルートを規定する構造的・分子的基盤を明らかにする。
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