公募研究
本研究計画は、(A)AS021と名付けられたSINE由来エンハンサーによるSatb2発現制御機構の研究、および(B)大脳新皮質で機能する新規エンハンサーの探索、の2点から成る。(A)に関しては、エンハンサーの分子機能およびSatb2の上流遺伝子を発見し、SINEを介した発現制御機構の解明を目的としている。平成23年度は、まずAS021遺伝子座がSatb2を大脳新皮質の深層ニューロン特異的に発現させるエンハンサーとして機能することを明らかにし、論文として発表した。さらに、Yeast one-hybrid screeningおよびトランスジェニックマウスを用いたエンハンサーアッセイにより、AS021遺伝子座に結合する転写因子としてNfixの同定に成功した。Satb2と同様、Nfixも脳梁形成の必須遺伝子であることが知られている。このことからSINE由来のAS021遺伝子座がNfixの結合を介してSatb2のエンハンサーとして機能し、脳梁への軸索投射に関与している可能性が示唆された。(B)に関しては、これまでにAS14_22-2と呼ばれる新規エンハンサーを発見し、詳細な分子機能解析を開始したところである。さらに複数のSINE由来エンハンサーを介した遺伝子発現の制御ネットワークを明らかにするために、Nfix結合モチーフを持つSINE由来領域を全ゲノム中から探索した。その結果、50以上の遺伝子座を発見し、そのうち少なくとも8遺伝子座に関しては実際にNfixが結合可能であることを示した。現在その中でエンハンサー機能を有する遺伝子座を探索中である。これらの発見は、Nfix結合モチーフを内部に含むSINEが哺乳類の祖先のゲノム中を転移することによって新規の発現制御領域を増大させていた可能性を示唆するものであり、大変興味深い成果と言える。
1: 当初の計画以上に進展している
AS021遺伝子座の機能解析の成果を論文として発表し、さらに新規エンハンサーも発見されている点は計画通りであると言える。予想以上に進展した点は、AS021の結合因子を介した遺伝子制御ネットワークの存在を示唆するデータが得られた点であり、エンハンサー探索によってそれが証明されれば研究が大きく発展すると期待される。
研究計画に記載された内容に関しては、平成24年度も計画通りに研究を継続する。それに加え、遺伝子制御ネットワークの存在を証明するために、AS021結合因子を介するエンハンサーも探索する予定である。新規エンハンサーが発見されれば、これまでAS021に関しておこなってきた内容と同様の解析を進め、大脳新皮質形成に至る制御ネットワークを明らかにする。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件)
DNA Research
巻: 19 ページ: 91-102
10.1093/dnares/dsr044
PLoS One
巻: 6 ページ: e28497
10.1371/journal.pone.0028497
PLoS Genetics
巻: 7 ページ: e1002203
10.1371/journal.pgen.1002203
Molecular Biology and Evolution
巻: 28 ページ: 1769-1776
10.1093/molbev/msq344