研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
23123507
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
貝淵 弘三 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00169377)
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キーワード | 神経科学 / 発生・分化 |
研究概要 |
神経細胞は脳内において複雑なネットワークを形成するが、その基本性能は信号を受け取り統合して他の細胞に伝えることである。そのため、神経細胞は分化の過程で、通常1本の軸索と複数の樹状突起を形成する。現在までに、我々を初めとする複数のグループが培養神経細胞の軸索形成を制御するシグナルを明らかとしてきた。しかしながら、生体内でどのような細胞内外のシグナルが軸索を決定しているのかは依然として不明である。本研究では、生体内での軸索形成・投射機構の解明を目指した。 本年度は軸索形成を制御する分子のスクリーニングを中心に行った。細胞外シグナルを明らかとするために、マイクロピペットを用いて培養神経細胞の単一の神経突起のみに刺激を与える系を確立し解析を行った。我々は、神経成長因子であるNT-3によって刺激された突起先端でIP_3受容体を介した一過性なCa^<2+>の上昇が起こり、軸索形成が誘導されることを明らかにした。また、このCa^<2+>上昇がCaMKK-CaMKI経路を活性化させることを見いだした。一方、子宮内エレクトロポレーション法を用いた解析により、上記の経路が生体内の軸索形成に重要であることも明らかにした。 また、我々は子宮内エレクトロポレーション法と切片培養法を用いたTime-lapse imagingによって、生体内での軸索形成過程を詳細に観察することに成功し、多極性細胞の未熟な突起が早生まれの神経細胞の軸索に接触することにより、軸索へと変化する現象を捉えた。我々はintegrinやTAG1の機能阻害抗体を加えると、多極性細胞が軸索を形成しにくくなることを見出した。上記の結果より、多極性細胞の軸索形成には神経成長因子だけではなく、細胞接着因子も重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、生体内での軸索形成機構を制御する分子基盤を明らかにしつつある。培養細胞を用いたスクリーニングの系、生体内での機能解析を行う系を確立し、NT-3-IP_3-Ca^<2+>-CaMKK-CaMK I経路が生体内の軸索形成にも必須であることを明らかとした。さらにNT-3以外にも様々な細胞外因子が生体内における軸索形成機構に関与する予備的知見を得ており、生体内の軸索形成機構を制御する分子ネットワークの解析の理解が進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度のスクリーニングで得られた細胞接着分子を中心に、子宮内エレクトロポレーション法を用いて解析を行う。我々は、細胞接着因子であるintegrinやTAG1の機能欠損により軸索が形成されにくくなるという予備的知見を得ている。今後、下流分子の探索や軸索形成時におけるシグナル分子の生体内での可視化を行い、各種シグナル分子の軸索形成に対する役割を解析する。遺伝子欠損マウスを用いた解析については、我々は軸索形成に重要な役割をはたすCRMP-2のコンディショナル遺伝子欠損マウスを作製済みであり、今後、領域・細胞特異的creマウスと掛け合わせることにより、生体内の神経細胞でCRMP-2の機能を解析する。
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