本研究では、マウス大脳皮質の2/3層興奮性神経細胞の生後発達をモデルとして、その特徴的な形態・機能獲得における神経活動の役割を明らかにすることを目指した。 まず、胎生後期・生後初期の皮質2/3層興奮性細胞の神経活動を亢進させる実験を行い、発達期の異常な神経活動が皮質回路構築に与える影響を明らかにした。具体的には、RNAi vector、機能阻害変異体の発現によって、神経細胞の興奮性調節に重要なK+チャネルの1つKCNK9の発現・機能を阻害すると、細胞移動途中の皮質2/3層細胞の自発Ca2+ transients の頻度が上昇すること、それに伴って細胞移動が障害されることを明らかにした。KCNK9は遺伝性発達障害Birk Barel mental retardation syndromeの原因遺伝子であり、上記実験で用いた機能阻害変異体はこの疾患原因遺伝子変異である。我々の結果から、KCNK9の機能阻害が活動依存的メカニズムを介して皮質回路構築を障害し、疾患につながる可能性が示唆された。 次に、神経活動を亢進させる目的で、原核生物由来のNa+チャネルNaChBacを細胞移動中の2/3層興奮性神経細胞に発現させる実験を行った。NaChBac発現により、移動中の神経細胞の興奮性が大きく亢進することを、電気生理学・Ca2+ imaging実験によって確認した。NaChBac発現により、細胞移動が障害され、移動途中で樹状突起形成が始まることを明らかにした。正常な皮質神経細胞の発達過程では、細胞移動中は細胞興奮性が低く、移動が終了して樹状突起形成が始まると、興奮性が上昇する。これらの結果から、発達過程の未熟な神経細胞(例えば移動中の細胞)では、細胞興奮性が低く保たれることが重要であることが示唆された。
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