公募研究
発生期に脳構築過程が撹乱された場合、成体になって精神遅滞や自閉症などの精神神経疾患へとつながることは容易に想像できる。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)は、ガン治療薬や抗てんかん薬としての作用が知られるが、妊婦などがこれらを服用した場合の胎児への影響については不明な点が多い。本代表者は以前に、神経幹細胞に抗てんかん薬であり且つHDACIでもあるバルプロ酸(VPA)を作用させると、ニューロンへの分化が劇的に促進されることを発見した。このことは、脳構築中の胎児がVPAに暴露されると、異常脳構築が行われる可能性を示している。そこで本研究ではマウス胎仔をモデルとして、妊娠マウスにVPAを投与し、発生段階を追って脳構造構築異常を解析すると同時に、成長後の行動異常を解析する。また、これらの解析を通し、VPA胎仔期暴露による、ヒストンアセチル化亢進というエピジェネティック変化が誘導する行動異常の原因を幹細胞制御と脳構築の観点から明らかにすることを目的として研究に着手した。本年度はまず、妊娠12~14日目マウスにVPAを300mg/kg/dayで投与し、胎生15日目と生後7日目のニューロン分化と層構造解析を行った。その結果、バルプロ酸の投与によって、神経幹細胞からニューロン分化への分化が促進されると同時に、深層ニューロンの産生が減少しかつ浅層ニューロンの産生が亢進することが分かった。また、培養系においても発生段階依存的な神経幹細胞の性質変化をある程度再現できるES細胞を用いた実験において、VPAに上述と同様の作用が観察された。これらのことは、神経幹細胞が深層ニューロン産生から浅層ニューロン産生へと性質を変化させる際に、ヒストン脱アセチル化酵素が重要な役割を果たすことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
この年度の研究計画として記載したことは、全て行った。表現系も見られ、今後そのメカニズム解明に向けた研究を展開できる目途が立ったため。
特に問題点等は感じていない。しかし次年度は、マイクロアレイ解析からこの現象に関係のある遺伝子を選択し、その遺伝子についての詳細な既報の調査、及び細胞や胎仔脳へ実際に導入して作用が見られるかの検討など、時間と労力が必要とされる過程に入るため、慎重にムダのないよう進行させる努力が必要であると考えている。
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