研究領域 | 神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築 |
研究課題/領域番号 |
23123522
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
花嶋 かりな 独立行政法人理化学研究所, 大脳皮質発生研究チーム, チームリーダー (80469915)
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キーワード | 大脳皮質 / ニューロン / 細胞分化 / 転写因子 / 層形成 / 神経前駆細胞 |
研究概要 |
大脳皮質を構成するグルタミン酸作動性のニューロンは、同じ時期に生まれた細胞同士が決まった層に配置し、共通の投射パターンをもつことが知られている。しかしこれらの異なる細胞群がどのように順次分化決定を受けるのか、その制御機構については今のところわかっていない。我々は、フォークヘッド型転写因子Foxg1の発現をマウス大脳皮質で深層投射ニューロンの産生時期にノックアウトし、初期ニューロン、深層投射ニューロン、上層投射ニューロンの各細胞種のマーカーと産生時期について調べた。その結果、興味深いことに大脳皮質のグルタミン酸作動性ニューロンの誕生日と順次産生((1)初期ニューロン(2)深層投射ニューロン(3)上層投射ニューロン)のタイミングが、Foxg1遺伝子発現のオフ、オンの切り換えに伴って移行することを見出した。この結果、Foxg1が大脳皮質の初期細胞から投射ニューロンへの産生移行のスイッチとして働くことがわかった。そこで次に、Foxg1の下流で作動する遺伝子ネットワークを同定するため、Foxg1誘導後0-48時間までの大脳皮質神経前駆細胞を単離し経時的トランスクリプトーム解析を行い、Foxg1誘導に有意に応答する19の転写因子を同定した。また、これらの転写因子について発生期の大脳皮質とFoxg1コンディショナルノックアウトマウスを用い、その時空間的発現パターンについて検証したところ、発生初期ではFoxg1と相補的な発現勾配を示し、またFoxg1の誘導により発現抑制されることがわかった。これらの結果により」Foxg1が大脳皮質の投射ニューロンの運命決定と分化のタイミングを支配するマスター遺伝子であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は発生期大脳皮質でのFoxg1の発現を時期特異的に制御することにより、Foxg1が大脳皮質の初期細胞から投射ニューロンへの分化移行を制御することを明らかにした。さらに経時的トランスクリプトーム解析を用い、初期ニューロンから投射ニューロンへの分化スイッチに関わるFoxg1下流の遺伝子ネットワークの同定が進み、これらの結果Foxg1が特定の因子を介して分化決定を制御しているのではなく、それ自体が複数の転写因子の発現制御を担う、投射ニューロンの運命決定のマスター遺伝子として働くという、新規な知見が見いだされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はFoxg1の下流で大脳皮質の初期ニューロンから投射ニューロンへの分化移行を制御する候補分子についてChIPアッセイ、タンパク質間相互作用解析を進め、Foxg1による転写調節およびタンパク質修飾等の発現制御様式を明らかにする。さらに、大脳皮質発生後期のFoxg1の標的遺伝子の絞り込みも行い、これら分子の上層ニューロンの分化制御や軸索ガイダンス機能を機能欠失実験等により評価する。これらの研究により、Foxg1を介した多様な大脳皮質神経細胞の系譜決定機構と分化制御プログラムを統合的に解明する。
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