本研究課題では、視床皮質投射の形成における腹側視床の機能を明らかにすることを目的として行った。 腹側視床が特異的に形成不全を起こしているマウス系統を用いることで、この領域の視床皮質投射形成への機能解析ができるものと予想される。転写因子Olig2は腹側視床の脳室層で発現していることから、まずOlig2欠損マウスでの前脳の発生を調べた。その結果、このマウスでは腹側視床が胎齢11.5日目(E11.5)から前脳の中で特異的に形成不全を起こしていた。一方で、腹側視床の腹側に位置するthalamic eminence(TEM)の領域は拡大していた。視床や腹側終脳などの形成に異常は認められなかった。Olig2欠損マウスでの視床皮質投射の形成を調べたところ、形成の初期(E13.5)から視床皮質投射の走行が乱れ、また軸索伸長が阻害されていた。Olig2欠損マウスの前脳を用いたマイクロアレイ解析により、発現変化を起こしている軸索ガイダンス分子を探索した。その結果、EphA3とEphA5の発現上昇が示唆された。in situ hybridizationによる解析から、腹側視床ではEphA3、EphA5の発現は見られないがTEMでは強い発現が見られた。従って、Olig2欠損マウスでは腹側視床の形成不全に伴いEphA3とEphA5の発現する領域が広くなっていた。そこで、視床線維の伸長におけるEphA3の機能を明らかにするため、EphA3をコートした基質の上で視床ニューロンを培養した。その結果、EphA3をコートした基質の上では対照群であるFcをコートした基質の上で培養した時に比べて、視床ニューロンの軸索伸長が抑えられる傾向にあった。 以上の結果から、Olig2はEphA3(とEphA5)を発現しない腹側視床を正常に形成させ、これが結果として視床皮質線維の正常な伸長につながることが明らかにされた。
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