公募研究
成体脊髄上衣細胞の幹細胞性維持に着目した研究を行った。上衣細胞特異的発現を可能とする為human FoxJ1プロモーター(hFoxJ1、全長(4.6kb)及び一部欠失(1.0kb))を用い、レポーター遺伝子としてEGFPを組み込んだアデノウィルスを構築し、ラット脳室内へ投与した。全長を用いた方が脊髄上衣細胞の標識効率が高かった。次にこのアデノウィルスにトランスポゾンシステムを組込み上衣細胞における長期遺伝子発現を試みた。hFoxJ1プロモーター下にTransposaseを、CAGプロモーター下にパルミトイル酸修飾残基を付加したpalEGFPを2つのTol2領域に囲んだ遺伝子領域を、それぞれ別々のアデノウィルスに組込み、ラット側脳室及び第四脳室に投与した。アデノウィルスによる遺伝子発現は一過性であり通常1週間程度が検出限界であるが、本システムを用いる事により少なくとも2週間後においても、palEGFPの発現が確認された。また、脊髄上衣細胞における遺伝子発現効率は第四脳室投与の方が良好であった。脊髄上衣細胞の自己複製を可能とする因子として神経幹細胞に関連した2遺伝子に着目し、アデノウィルスを用いた脊髄上衣細胞における強制発現を試みた。ある1因子の遺伝子導入では、細胞増殖と共にグリア細胞への細胞分化が確認された。また別な1因子の遺伝子導入では、細胞分化を伴わない自己複製が確認された。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究目標は、アデノウィルスを用いてラット脊髄上衣細胞特異的な遺伝子発現が可能か、長期的遺伝子発現が可能か、脊髄上衣細胞における自己複製を調節する事が可能か、それぞれ検証を行う事にあった。ラット脊髄上衣細胞特異的な遺伝子発現については、human FoxJ1プロモーターを用いる事で可能となった。マウスにおいては1.0kbでも機能するとされていたが、ラットにおいては4.6kbを用いる方が望ましい事が判明した。ラット脊髄上衣細胞における長期的遺伝子発現については、アデノウィルスにトランスポゾンを組込んだシステムを構築した。これまでの結果から、上衣細胞におけるアデノウィルスによる遺伝子強制発現系では、特定の処理を行わない限り、その発現の確認は1週間を超えて行う事は困難であったが、本システムを用いる事により少なくとも2週間後においても遺伝子発現を確認する事が可能となった。最後に脊髄上衣細胞における自己複製を調節する事が可能かどうかについては、神経幹細胞に発現する1因子により細胞分化を伴わない細胞分裂(自己複製)が可能となった事が確認された。これらの事から、当初の目的はおおむね果たされたと考えられた。
魚類及び両生類における損傷脊髄で観察される脊髄上衣細胞の機能として、細胞増殖・上皮間葉移行・細胞移動・再生軸索伸長支持・神経細胞新生が挙げられるが、本研究では細胞増殖(自己複製)と神経細胞新生に着目し研究をすすめる事となっている。平成23年度では特定1因子の導入により、脊髄上衣細胞の細胞分化を伴わない細胞増殖(自己複製)が確認されたが、また別の特定1因子の導入では細胞分化を伴う細胞増殖が観察された。後者につき、この遺伝子の活性ドメインに着目し、各活性ドメインのみの遺伝子導入により細胞分化を伴わない自己複製が可能となるかについて、検討を加える。また、神経細胞新生については、神経細胞新生・グリア細胞新生を調節する遺伝子のノックダウンを行う事で、脊髄上衣細胞からの神経細胞新生を可能とする実験計画であり、これを目的としたmicroRNAを構築し(構築中)、アデノウィルスを用いた脊髄上衣細胞への導入により脊髄上衣細胞からの神経細胞新生が可能となるかどうかについて、検討を行う。microRNAの効果については、まず培養系において、レポーターとしてルシフェラーゼを、その直下にmicroRNAと相補的な遺伝子配列を配したベクターを構築し、対照としてレニラルシフェラーゼ発現ベクターを構築、そして3種のmicroRNA発現ベクターを構築し、これら3種類のプラスミドを293細胞へ遺伝子導入し、microRNA発現による遺伝子ノックダウン効果を確認する。その上でmicroRNA発現アデノウィルスを構築し、脊髄上衣細胞における特定遺伝子のノックダウンと、それによる神経細胞新生効果を確認する。
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