1.Psmb9 hotspot における組換えの性差を決定する分子メカニズムの解明 減数分裂期組換えの性差を生むことに寄与することが期待される候補遺伝子の機能を解析するためのアッセイ系として、大量に生産される精子を用いて低頻度で出現する組換え型精子を可視化する実験系を構築した。このために、精子に残存するミトコンドリアに着目し、発現マーカー遺伝子(EYFP)にミトコンドリア局在シグナルを付加した基本ベクターをC57BL/6系統に遺伝子導入して、基準トランスジェニック(Tg)系統を作製した。この系統をベースにして、プロモーター欠失型、マーカー欠失型のマウス2系統を各々作製して交配することで、組換え型マーカー遺伝子発現を可視化する組換えアッセイ系が構築可能である。 2.種分化遺伝子としてのPrdm9の進化系統解析 前年度に、多数の野生マウス標本を活用して遺伝的多型解析を実施し、マウス自然集団におけるPrdm9の多型の実態を明らかにした。Prdm9は、その多型性を介してマウスの種分化遺伝子として機能することが報告されている。この点を明らかにするために、マウス種分化以前に出現したことが知られており、Prdm9遺伝子を含む領域に逆位を持つt-complex変異染色体に着目した。この変異染色体を有するマウスを対象にPrdm9多型についての集団解析を実施した。この結果、t-complex変異を持つマウスのPrdm9の同一多型が、マウス種内や亜種内の近縁のマウス集団にも存在することが明らかになった。このデータは、起源が古く大きな遺伝的距離を有するPrdm9多型を持ったマウス個体間で、進化上かつて交配が生じていたこと、また、その交雑個体に念性があったことを示唆している。したがって、Prdm9遺伝子は、古くは種分化遺伝子として機能していなかった可能性が示された。
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