研究概要 |
1効率的なヒトiPS細胞からの脂肪細胞分化誘導法の確立 申請者らはこれまでにヒトiPS細胞が胚様体(EB)形成を介する分化誘導法にてヒトES細胞に相当する脂肪細胞への分化能をもつことを報告した(FEBS Letters 2009)。iPS細胞由来脂肪細胞の機能解析及び細胞治療には脂肪細胞の純化が大きな課題である。従って前駆脂肪細胞や中胚葉系幹細胞の特異的な表面抗原等を用いた単離による細胞系譜特異的な分化誘導法の確立が必要である。具体的にはマウスES細胞の中胚葉系幹細胞への分化誘導の知見を基にCD140a (PDGFRa)をマーカーとして細胞集団を抽出し脂肪細胞分化誘導を試みた。ある分化誘導条件においてCD140a陽性の細胞集団が一定の割合で存在し、抽出可能であったが脂肪細胞分化能は極めて低レベルであった。同細胞集団の骨格筋への分化誘導能も低く、ヒトiPS細胞ではCD140aは中胚葉系幹細胞マーカーでない可能性が示唆された。他の分化誘導条件も含めさらなる検討を要する。 2脂肪萎縮症患者からの疾患特異的iPS細胞作製 疾患特異的iPS細胞の作製に関しては京都大学医学研究科・医学部医の倫理委員会からの承認(第824番)を得て、京都大学iPS細胞研究所と連携し脂肪萎縮症患者から皮膚組織を採取しOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子あるいはOct3/4, Sox2, Klf4の3因子のレトロウイルスを用いて作製した。現在、既に先天性脂肪萎縮症患者4例と後天性脂肪萎縮症患者2例と部分性脂肪萎縮症患者1例からの作製を試みた。未分化遺伝子の発現解析とin vitro及びin vivoでの三胚葉系への分化能の検証を行い、ヒトES細胞に匹敵する多能性幹細胞であることを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1効率的なヒトiPS細胞からの脂肪細胞分化誘導法の確立 申請者らは4種類のヒトiPS細胞と2種類のヒトES細胞をフィーダー細胞を用いず、胚様体形成を介する方法で脂肪細胞への分化誘導を行った。すべてのクローンにおいて脂肪蓄積を認め、脂肪細胞分化関連遺伝子であるPPARγ, C/EBPα, aP2, Leptin等のmRNA発現を認めた。分化誘導後、未分化マーカーであるNanogのmRNA発現は抑制され、脂肪細胞関連遺伝子の発現は経時的に増加した。ヒトiPS細胞がヒトES細胞に相当する脂肪細胞への分化能を持つことを明らかにした。さらに細胞系譜特異的の分化誘導系の開発を目指して前駆脂肪細胞あるいは間葉系幹細胞の同定・単離のための適切なマーカーの選択を行っている。また間葉系幹細胞を含むとされるヒトiPS細胞由来間葉系前駆細胞(Methods Mol Biol. 2011)の分化誘導に成功している。 2脂肪萎縮症患者からの疾患特異的iPS細胞作製 京都大学医学研究科・医学部医の倫理委員会からの承認(第824番)を得て、京都大学iPS細胞研究所と連携し脂肪萎縮症患者から皮膚組織を採取しOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子あるいはOct3/4, Sox2, Klf4の3因子のレトロウイルスを用いて作製した。先天性脂肪萎縮症患者4例と後天性脂肪萎縮症患者2例と部分性脂肪萎縮症患者1例から疾患特異的iPS細胞の樹立を行った。樹立に際しては未分化状態の維持が困難な細胞株が存在することから未分化性及び多能性の検証に時間を要したが、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1効率的なヒトiPS細胞からの脂肪細胞分化誘導法の確立:脂肪細胞の起源は一般的には中胚葉、間葉系由来で、なかでも体節を形成する沿軸中胚葉由来と考えられている。また、マウスES細胞の解析から一部は神経堤細胞由来とも考えられている。さらにマウス脂肪組織のstromal vascular fractionに含まれる前駆脂肪細胞群の表面マーカーの組み合わせについて解析がなされてきた。しかしヒトの前駆脂肪細胞の表面マーカーの探索及び単離は十分になされていない。申請者らはヒト多能性幹細胞からの前駆脂肪細胞の単離を目指して、ヒトiPS・ES細胞由来間葉系前駆細胞 (Methods Mol Biol. 2011)においてCD34, CD73, CD90, CD105, CD140a, CD166 などの表面マーカーの解析を行い、それぞれ単離し脂肪細胞分化能について比較検討を行う。 2脂肪萎縮症患者からの疾患特異的iPS細胞作製:平成23年度において作製した脂肪萎縮症患者由来iPS細胞のなかから遺伝子異常が明らかな症例由来のiPS細胞(BSCL2遺伝子異常及びLMNA遺伝子異常)について、脂肪細胞分化誘導を行う。脂肪蓄積や脂肪分解、インスリン反応性などの脂肪細胞機能を健常者由来iPS細胞と比較検討を行う。 3脂肪萎縮症モデルマウスにおける異所性脂肪蓄積の病態形成の分子基盤の解明:申請者らは脂肪萎縮症マウスで体重の約3%の脂肪組織補充治療によりインスリン抵抗性、糖代謝異常、脂肪肝が著明に改善することを確認している。また脂肪萎縮症と同様に高血糖、重度のインスリン抵抗性、高中性脂肪血症、脂肪肝を呈する脂肪萎縮症ヌードマウスを確立している。iPS細胞等のヒト幹細胞由来脂肪細胞の移植を行うことで脂肪肝の改善する分子メカニズム(AMPK、PPARalpha等)を明らかにする。
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