本研究の目的は、幼若期に形成されるPrRP産生ニューロン-オキシトシン産生ニューロン-セロトニン作動性ニューロン回路が、幼若期ストレスによって可塑的に変化し、将来の摂食行動を規定しているという仮説の検証を行うことである。 まず、成体においてPrRP産生ニューロン-オキシトシン産生ニューロン回路が摂食を抑制するかを検討した。PrRP遺伝子欠損マウスとオキシトシン受容体遺伝子欠損マウスでは、野生型と比較して一回摂食量が暗期特異的に増大していた。また、一回摂食量を決定する末梢の満腹物質であるコレシストキニン(CCK)を投与すると、野生型では視床下部室傍核、視索上核、分界条床核に存在するオキシトシン産生ニューロンが活性化されたが、PrRP遺伝子欠損マウスではこの活性化が抑制された。これらのことから、暗期においてCCKはPrRP-オキシトシン系を介して満腹信号を伝達している可能性が示唆された。更に、成体においてオキシトシン産生ニューロン-セロトニン作動性ニューロン回路が摂食を抑制するかを、オキシトシン受容体遺伝子座にVenusをノックインしたマウスを利用して検討した。摂食あるいはCCK投与によって、オキシトシン受容体を発現するセロトニン作動性ニューロンの活性化が確認された。 一方で、母仔分離ストレスによって、仔のオキシトシン産生ニューロンが活性化されることを明らかにした。昨年度の結果とあわせると、幼若期ストレスによるオキシトシン系の活性化が将来の肥満に影響を与える可能性が示唆された。 さらに、PrRP産生ニューロン-オキシトシン産生ニューロン-セロトニン作動性ニューロン回路を詳細に明らかにする目的で、PrRP産生ニューロンあるいはオキシトシン産生ニューロンを部位・時間特異的に破壊できるトランスジェニックラットを作製した。
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