C57BL/6J (12週齢、雄)マウスおよびオレキシン神経欠損マウスを、低脂肪食(8%脂肪)または高脂肪食D12451(24%脂肪;Research Diets社)を用いて飼育した。ランニングウィール設置群では自発運動量が増えた。しかし、高脂肪食誘導性肥満への抑制効果は強いものではなかった。睡眠遮断による体重への影響は顕著なものではなく、明期4時間の睡眠遮断では開始当初を除き、通常餌群、高脂肪食群とも体重への影響は認めなかった。ランニングウィール群では糖代謝の指標が高脂肪食投与でも維持されていることから、運動の効果は体重よりも糖代謝の方に強い傾向が認められた。また、雌雄で比べると、雄よりも雌のほうに効果が認められた。高脂肪食誘導性肥満が強まるオレキシン神経欠損マウスにおいて、運動による体重増加抑制が認められるものの、ばらつきも大きい。 以上のような、環境要因が摂食や体重制御、糖代謝に及ぼす機序に、神経ペプチドやモノアミン産生細胞のエピジェネティック機構の関与が考えられた。摂食、体重制御に関わる神経ペプチドおよびモノアミン産生神経細胞群におけるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)ファミリーの発現を検討したところ、HDAC1やHDAC2のように各神経細胞群に発現しているものから、HDAC8のようにヒスタミン作動性神経細胞のみに発現しているものまでバラエティ-が認められた。神経細胞群はHDAC発現プロファイルによって分類できることが明らかとなった。 引き続き本研究で示唆された神経ペプチドとHDACとのインタラクションを、遺伝子改変マウスやウイルスベクターを用いて明らかにする。
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