研究概要 |
我々の研究目的は「卵割」という現象を統一的に理解することである.卵割とは発生の初期段階において,受精卵が全体のサイズをほぼ一定に保ちつつ分裂を繰り返しながら細胞数を増やしていく過程である.この過程は細胞の成長を除けば,体細胞分裂と同じ様式で行われていることが知られている.卵では分裂時,微小管・紡錘体・収縮環など様々なミクロな要素が連携してマクロな現象である細胞分裂を起こしているが,どのようなメカニズムによって細胞分裂の位置取りや分裂方向をコントロールしているかは依然としてわかっていない. 卵には動物極と植物極という特別な極があり,ある種の染料で染め分けることができる.ウニではこの極をそれぞれ北極・南極とみなす時,第1・2分裂は2つの極を通る分裂(経割),第3分裂ではそれらに垂直な分裂(緯割),第4分裂では北極側の細胞群は緯割,反対側の細胞群は経割となる.このようなことから,細胞内に極性を作るようなモルフォゲンが細胞分裂の方向性を決定している可能性が高い.そこで,我々は次の簡単な2つの仮定(A,B)を置き数理モデルを構築した.A; 2つの極をソースとし,2種類の因子が卵内部を拡散し,一定率で分解される.B; その因子が中心体(紡錘体の方直性を決定づける細胞内小器官)の位置取りを決める.我々は,このような簡単な仮定に基づく数理モデルを3次元空間において数値計算したところ,ウニ卵の卵割を再現することができただけでなく,同じ棘皮動物門であるナマコやヒトデの卵割も再現することができた. 我々は理論的考察だけではなく,広島大学の泉教授と前田氏の協力の元,実験も行なっている.我々のモデルでは上記の因子は低分子の拡散性因子であって,細胞膜の透過性が高いと考えられるため,その枠組に沿って実験的な同定作業を進めている.その結果,レチノイン酸という化学物質を候補として見つけることができた.この物質の欠乏はウニの骨片形成に影響を与えることが実験的にわかっており,植物極付近にて生成される因子そのものか,もしくはその副産物ではないかと考え現在検証中である.
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今後の研究の推進方策 |
我々は大筋には当初の計画どおりに研究をすすめる.しかしながら,上記のような数値計算上の細胞表現に関する問題を解決するために,申請者等が開発したPhase Fieldモデルベースの細胞分裂モデルを更に改良する行この細胞分裂モデルは計算メモリーの使用量が大きいことが問題であったが,それを解決する方法が見つかったため,問題なく改良を行うことができると考えている.
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