卵割とは発生の初期段階において,受精卵が全体のサイズをほぼ一定に保ちつつ,分裂を繰り返しながら細胞数を増やしていく過程である.この間,各細胞の分裂面は周りの細胞との力学的要因やモルフォゲンの働きによって決定されていると考えられている.細胞内では細胞分裂時に紡錘体が形成され,分裂の位置や方向が決定されるが,その紡錘体の位置決めは1対の中心体によって決定されることが報告されている.以上のことから,本研究では細胞内において,どのようなメカニズムにより中心体の位置は決定されているのかを,できるだけ簡単な数理モデルで説明することが研究の主目的となっている. 平成24年度までの先行研究により,“卵の動物極と植物極をソースとし拡散する因子(モルフォゲン)が中心体の運動に影響を与える”と考え,ウニ卵に関する数理モデルを作成し,3次元の数値計算を行った.その結果,この因子の濃度分布の形状が細胞分裂の位置取りや方向性を決めていることを数理的な観点から見出した.すなわち,細胞内において中心体はモルフォゲンの影響を受け運動を行うが,中心体同士は微小管により相互に力を及ぼし合っているため,単独では運動できない.このような状況下では,中心体の運動はモルフォゲンの勾配だけではなく,その凸性が重要な働きを担っていることがわかったのである. 我々はウニ以外にもナマコ,ヒトデなどの生物種の数理モデルを作成した.その結果,幅広いパラメタ領域でこれらの卵割を統一的に再現することができた.このことは,本モデルの頑強性を示すだけなく,その数学的な根幹部分に「凸性」という単純なロジックが存在しているためであると考えられる.
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