研究概要 |
多細胞生物の器官は固有のパターンを有することが知られている。例えば、哺乳類の内耳においては、個々の有毛細胞が非対称な形態(極性)を有し、これらの細胞の極性の向きが器官の特定の軸に沿って揃っている。この現象は平面内細胞極性(Planar cell polarty,PCP)と呼ばれ、頂底軸方向の極性(apico-basal極性)に直交する組織平面内の極性として定義される。ショウジョウバエの翅などを用いた研究から、PCPが形成される際、位置情報である非典型的カドヘリン分子Dachsous(Ds)とゴルジ体キナーゼFour-jointed(Fj)の発現の濃度勾配が作られ、この情報に従って7回膜貫通型受容体Frizzled(Fz)などの偏在化が起きると考えられている。しかしながら、ショウジョウバエの組織毎に、DsとFjの濃度勾配とFzの非対称局在の関係が異なっており、PCP形成時における「器官の位置情報」と「個々の細胞の極性」を繋ぐ分子機構には不明な点が多い。これまでに我々は、PCP分子の一つであるSpiny-legs(Sple)がこの謎を解く鍵となることを見出している。我々はショウジョウバエを用いた遺伝学スクリーニングにより、Spleと遺伝学的に相互作用する分子の探索を行った。その結果、Spleの強制発現によるPCP異常(翅毛の配向性の逆転)を抑圧する複数の遺伝子を同定した。また、生化学的手法により、Spleとこれらの分子の相互作用を確認した。上述の結果ならびに同定した分子の発現解析の結果を基に、「器官の位置情報」と「個々の細胞の極性」を繋ぐ機構の数理モデルを構築した(九州大学マス・フォア。インダストリ研究所の秋山正和博士との共同研究)。今後、実験(遺伝学・生化学的解析)と数理モデルの双方向の検証を行うことにより、組織毎にPCPの機構が異なるロジックの解明を目指す。
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