研究概要 |
本年度は,(1)分子スケールにおいて,分子動力学シミュレーションにより,張力作用下アクチンフィラメントの立体構造変化の解析を行った.結果,張力作用下アクチンフィラメントは,その二重らせん構造に基づき,伸び方向の変形のみならず,回転(ねじれ)方向の変形を示すことがわかった.力学-生化学変換の分子的実体は,アクチンフィラメントの立体構造変化を相互作用変調の場とすることが考えられるため,今後,アクチン調節タンパク質との相互作用を解析する予定である.(2)分子集団スケールにおいては,アクトミオシンネットワークのダイナミクスを表す数理モデルを構築し,アクトミオシンネットワークが自律的にバンドル構造を形成するシミュレーションに成功した.さらに,ネットワークに発生した収縮力を計測したところ,ミオシン濃度に比例して,アクトミオシン収縮力は双線形型に増大することがわかった.(3)細胞スケールにおいては,熱ゆらぎを介して,アクチン重合と細胞変形が連成する仕組を数理モデルとして表し,細胞運動における細胞形状とアクチン重合速度の関係を解析した.結果,アクチン重合は実効的に細胞曲率に依存することがわかり,重合調節因子には局所的に働く生化学的因子に加え,細胞形状などの細胞スケールの力学的因子が重要であることを示した.(4)組織スケールにおいては,非線形・大変形を伴う組織の形態変化を検討し,細胞スケールから組織スケールのダイナミクスを表す新しい数理モデルを構築した.本モデルを細胞成長にともなうシート状組織の形態変形についてシミュレーションに適用し,細胞成長による体積増加を駆動力とする大変形や多層状シート構造への変化を再現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,形態形成過程などで見られる組織階層における多細胞間の協調によるダイナミクスと細胞階層の力場・細胞変形との関連,さらに細胞変形によって生じる分子階層の力学-生化学変換について,アクチン細胞骨格系の力学-生化学連成を中心に,階層間接続するマルチスケールメカノバイオロジーの解析手法の構築を目指している.当初の予定した計画通り,各スケールにおける数理モデリングの基盤を構築し,また,単純化した条件下における初等的なシミュレーションに対して,適用することに成功した.特に,分子スケールにおいて得られた,張力作用によるアクチン立体構造変化の解析結果は,今後,力学-生化学連成の分子的実体を明らかにするための重要な成果となうことが期待される。
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