公募研究
神経細胞が外部の生体分子を感知しながら軸索の伸ばす方向を決めるとき、細胞膜電位を変化させていることが実験観察により分かっている。つまり生化学的シグナルを細胞膜電位に変換している。この変換過程を数理的に解明することが本研究の目的である。細胞内の生体分子によるシグナル伝達を解明するために生化学的実験が行われるが、生化学的実験は時間・費用のコスト、および人的リソースの比重も大きい。一方で、電気生理実験はこれまでの技術の蓄積があり、コストパフォーマンスが良い。本研究では、実験の共同研究者から提供を受けた膜電位の時系列データを解析することで、細胞内の生化学的シグナル伝達を推定する。本研究の手法が可能となれば、分子システムを同定するためにコストパフォーマンスの良い膜電位計測を実験で行うことになり、実験効率が非常に良くなる。本年度は、生化学シグナルから膜電位に至る力学モデルを構築し、膜電位時系列の実験データを導入することで、モデルのパラメータ推定とモデルの尤もらしさ(尤度)を計算した。その際、生物学的知見を事前知識として反映させ、あらゆる経路の可能性を検証した。具体的には、生化学的入力刺激であるcGMP(10μM)の細胞内注入からの膜電位時系列を用い、Cyclic nucleotide-gated ion channel(CNGC)およびProtein Kinase G(PKG)を含むシグナル伝達モデルを計算した。その結果、PKGからCNGCに対する抑制効果がある可能性が高いことが分かった。また、尤もらしいモデルを用いてcGMPの刺激濃度を変えたときの定常状態の膜電位が、実験データによく合うことが示された。これは推定されたシグナル経路が信頼性が高いことを意味する。
2: おおむね順調に進展している
当初からの目標であったシグナル伝達モデルを構築し、ベイズ推定により可能性の高いモデル選択が行えた。また、そのモデルが全く別の実験観測を再現していることは、推定経路の高い信頼性を意味する。現在論文執筆中である。
解析は最終段階であり、詳細をつめながら論文作成、および論文誌への投稿を行う。本研究では刺激がcGMPであたが、他にNetrinやグルタミン酸などの刺激分子が考えられ、実験データも取得可能である。論文投稿後は、これら他の分子について、同様の手法を試み、システム同定を行う。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Mol.Biol.Cell
巻: 22 ページ: 3541-3549
10.1091/mbc.E11-02-0139